炎症と栄養
クローン病における腸粘膜炎症とアミノ酸
栄養-評価と治療 Vol.28 No.3, 25-28, 2011
SUMMARY
窒素源がすべてアミノ酸で構成される成分栄養剤(ED)は,クローン病の治療において高い寛解導入・維持効果を示す。その効果発現には,栄養効果に加えて,腸管の安静化・腸内細菌叢の変化などが関与するとされてきた。われわれは,マウスIBDモデルを用いた検討から,EDに含まれるアミノ酸成分が腸炎抑制作用を有していることを見出し,特にヒスチジンの抗炎症作用について検討を行った。
KEY WORDS
■ クローン病 ■ 成分栄養剤(ED) ■ マウスIBDモデル ■ アミノ酸 ■ ヒスチジン
Ⅰ 緒 言
IBD(inflammatory bowel disease)は難治性の慢性炎症性腸疾患であり,クローン病と潰瘍性大腸炎の2つの疾患に大別される。わが国においては,欧米諸国における患者数の割合に比べると10分の1程度であるとされるが,食生活の欧米化などの要因を反映し,年々患者数が増加している。しかしながらIBDの原因はいまだ不明であり,根本的な治療法が確立されていない。
成分栄養剤(elemental diet;ED)は,窒素源のすべてがアミノ酸で構成され,化学的に明確な組成からなる経腸栄養剤である。活動期のクローン病に対するEDの有用性は,ステロイドと同等の寛解導入効果を示すという報告1)などから明らかにされている。EDの治療効果発現機序については,いまだ明らかにされていない部分が多く,栄養効果に加えて,抗原性を示すたんぱく質を含まないことによる粘膜免疫応答の低減,低脂肪による膵外分泌・消化管運動亢進の抑制などを中心とした腸管の安静化,あるいは腸内細菌叢の変化による腸内環境の改善などが寄与していると考えられてきた2)。一方で,クローン病の寛解維持期において,食事と組み合わせたEDの摂取が維持効果をもたらすことから3),上記作用に加えて,積極的な薬理作用を有する成分が含まれている可能性が考えられた。
これまでに,動物IBDモデルを用いた研究から,特定のアミノ酸の薬理効果に関する報告がなされてきた。たとえばグルタミン4)やグリシン5)は,化学物質により惹起されるラットIBDモデルにおいて,腸管の炎症を抑制することが明らかにされている。EDには,17種類の遊離アミノ酸が,全成分中17.6%もの高い割合で含まれていることから(表1),われわれはEDを構成するアミノ酸の腸炎抑制効果について,マウスIBDモデルを用いて検討を行った6)。
Ⅱ 方 法
1.マウスIBDモデル
動物のIBDモデルとして, マウスIL(interleukin)-10(-/-) 細胞移入腸炎モデルを用いた7)。腸炎を発症したIL-10(-/-)マウスから脾臓および腸間膜リンパ節の細胞を調製し,重症複合型免疫不全(severe combined immunodeficiency;SCID)マウスに移入することによって,3週間という短期間で,安定して腸炎を発症する。本モデルは,クローン病に類似したTh1型の慢性大腸炎を呈し,IBDの病態研究に最も貢献している動物モデルの1つであるIL-10(-/-)マウスを改変した,薬効評価に適した動物モデルである。標準餌としてCharles River Formula-1(CRF-1)の粉餌を用い,細胞移入直後からEDのアミノ酸構成成分(elemental diet amino acids;EDAAs),ヒスチジンあるいはアラニンをCRF-1に混ぜた餌,あるいはED(標準餌を完全にEDに置き換えた)を自由摂食させて3週間後に剖検し,大腸重量あるいは大腸組織の腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF)-α 遺伝子を測定した。腸管病理はヘマトキシリン・エオジン染色を行った。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。