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症例による病態栄養講座

第70回 高齢者の嚥下障害の栄養管理

三宅利恵関戸元恵林靜子

栄養-評価と治療 Vol.28 No.3, 10-13, 2011

Point
嚥下障害は,食物摂取不足による低栄養を引き起こすことが多い。低栄養は,誤嚥やさらなる嚥下機能の低下を引き起こすため,栄養状態を改善させることが必要である。経口摂取のみで必要栄養量を確保することが難しい場合,経口以外の栄養補給方法の特色を知ったうえで選択することが重要である。また,安全な経口摂取のためには食物の物性や食環境に対する配慮が必要である。重度の嚥下障害であっても,栄養状態の改善により楽しみ程度の食物摂取につながる可能性があり,高齢者のQOLの維持には大切なことである。

I.はじめに

 嚥下障害は,経過によっては口腔リハビリテーションや嚥下訓練により機能が回復するものもあるが,高齢者の場合,一般的には慢性疾患の合併症に加齢による嚥下機能の低下が重なり,経口での栄養摂取が困難となることが多い。その結果,食物摂取不足となり,低栄養を引き起こす可能性が高くなる。また,誤嚥性肺炎や窒息の危険性も高まる。
 嚥下障害がある高齢者は,経口摂取だけでは必要栄養量を満たすことが難しく,経口以外の栄養補給方法の検討が必要となるが,経口と経口以外の栄養補給方法を併用することもある。経口との併用または経口摂取のみで必要栄養量を満たそうとする場合は,嚥下機能を評価し,それに基づく嚥下リハビリテーションと嚥下機能に合った食物の提供が必要であり,また,リハビリテーションが可能な栄養状態を維持することも必要である。低栄養は嚥下障害を修飾する要因1)であり,嚥下障害を悪化させる可能性があるからである。 
 また,経口摂取不能と診断されて経口以外の栄養補給方法を選択したとしても,「少しでいいから」,「どうしても何かを食べたい」,「食べさせたい」と望む高齢者や家族は多く,誤嚥や窒息の危険性を承知したうえで,1口,2口の楽しみ程度の経口摂取を行うこともある。危険を承知しているとはいえ,できるだけ安全に経口摂取を実施するためには,食物の物性や食べる姿勢,食べ方,食具など食環境への配慮が必要であり,また,栄養状態も安全に大きく関与する。低栄養は嚥下障害の要因となるだけではなく,誤嚥性肺炎の危険性を高めることもある。
 本稿では,経管栄養から離脱し経口栄養へと移行できた症例と,嚥下機能低下が予測されたために早期に胃瘻を造設し,経管栄養で必要栄養量が確保できたことにより,楽しみ程度の経口摂取が継続できた症例の栄養管理について述べる。

II.症例1 経管栄養から離脱できた症例経管栄養から離脱できた症例

【症 例】93歳,女性
【主病名】挫滅症候群,認知症
【入院の経緯】自宅で倒れて急性期病院に搬送され,挫滅症候群と診断され入院となった。補液で全身状態が改善したので,自宅での食事を踏まえて嚥下食を開始したが,むせこみがひどく窒息や誤嚥の危険性が高いと判断され,経鼻胃管での栄養管理となり,23病日目に当院へ転院となった。意識状態は良好。意思伝達はほとんど不能。歩行不能。寝返り不能。
【入院後の経緯】入院当初より前院からの経鼻胃管による栄養補給を引き継ぎ実施していたが,入院2週間後のカンファレンスで家族の経口摂取への強い希望があり,リハビリテーション医によるフードテストの結果,廃用症候群による嚥下機能低下,口腔の筋力低下があるが,訓練により経口摂取可能となると診断され,経口摂取移行への計画が策定された。
【入院時栄養状態】表1のとおり,体重39.9kg,BMI 19.2kg/m2,アルブミン値3.7g/dℓと標準値内にあり良好と判断した。

【必要栄養量の算定】症例1における必要栄養量の算定を表2に示した。

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