特集 食事療法と運動療法
Ⅰ. 食事療法の基礎と臨床 1.栄養素とインクレチン,糖・脂質代謝
The Lipid Vol.32 No.1, 16-25, 2021
インクレチンと総称されるglucagon-like peptide-1(GLP-1),glucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)は,栄養素摂取に応答し消化管から分泌され,全身の糖・脂質代謝を制御することから,糖尿病や肥満に代表される生活習慣病の発症・重症化予防の標的として注目される。GLP-1,GIPは,膵β細胞に作用して血糖依存的にインスリン分泌を促進する。さらに,GLP-1は膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制するとともに,胃内容物排出時間を遅延させることで食後高血糖を是正する。また,GLP-1は消化管からの脂質吸収を抑制するとともに,肝臓の脂肪酸代謝を制御することで脂肪肝を是正する。加えて,GLP-1は中枢に作用して食欲を抑制し,減量効果を発揮する。GIPは,低血糖時に膵α細胞からのグルカゴン分泌を促進し,血糖値を正常範囲に保つ。また,GIPは骨形成を促進することから,骨折やサルコペニア,フレイルの観点からも注目されている。一方,GIPは,高脂肪食に対して脂肪組織へのエネルギー蓄積を促進するため,インスリン抵抗性を惹起し,耐糖能を悪化させうる。GLP-1,GIP共に,食事に含まれるさまざまな栄養素の量や内容,さらには摂取の順番により分泌量が変化することから,糖尿病や肥満に代表される生活習慣病の発症・重症化予防に資する食事療法を考える上で,インクレチンが注目される。
「KEY WORDS」栄養素,GIP,GLP-1,食事療法,食べる順番
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。