本企画のテーマでもある脂質の可視化は,近年,脂質分子の生体機能への役割が明らかにされるにつれて重要性を増してきている。脂質可視化の方法は多岐にわたるが,今回われわれが提示した画像は,質量分析イメージング(imaging mass spectrometry;IMS)という手法によって得られたものである。IMSは,位置情報を保持したまま観察対象をイオン化し,質量分析(massspectrometry;MS)を行う画期的な手法である1)。従来の標識化が必要である手法と比較して,MSは標識化の必要なしに,わずかな構造の違いしかない多種多様な脂質の解析が可能である。また,それに加えて,IMSでは生体組織における脂質の分布像も取得でき,脂質の生体内での役割を解き明かす上で重要な情報を多く得ることができる2)。IMSの詳しい解説はThe Lipid 2019年10月号にあるので文献2を参照していただきたい。本項では,IMSによる乳がん組織内の脂質の可視化についてわれわれが行った2つの研究を中心に解説したい。