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症例検討 脂質代謝異常症への多角的アプローチ

第127回 急性冠症候群の発症阻止:冠動脈不安定プラークとスタチンパラドックス

~冠動脈CTアンギオグラフィーおよび抗PCSK9抗体製剤を用いた急性冠症候群発症阻止に向けた新たな診断治療アプローチ~

平井愛山平井啓之藤村公治

The Lipid Vol.30 No.1, 98-104, 2019

人口構造と疾病構造の変化に伴い,慢性疾患の重症化予防は,国の医療政策の根幹となっている.2012年に国が策定した「健康日本21(第二次)」には,医療政策上優先的に取り組むべき課題の1つに「虚血性心疾患の減少」が明記されている1)
虚血性心疾患のなかで,最も重篤なのが急性冠症候群(acute coronary syndrome;ACS)とよばれる冠動脈のプラーク破綻を契機に急速に血栓形成・閉塞が進行する疾患である.ACSには,急性心筋梗塞と不安定狭心症があり,急速に血栓形成が進展して血流が途絶し心筋壊死にまで至る病態が急性心筋梗塞,急速に増悪する狭心症発作はあるが有意な心筋壊死には至らない病態が不安定狭心症とされている.ACSの発症は,心臓死や心不全などの重篤な後遺症につながるため,ACSの発症阻止は,虚血性心疾患の減少の主要な課題である.
虚血性心疾患の原因は,冠動脈の動脈硬化病変であり,かつては冠動脈の動脈硬化が進行し,冠動脈の高度狭窄から閉塞に至った結果,血流が途絶し心筋梗塞を発症すると考えられていた.しかし,冠動脈の狭窄が時間をかけて閉塞に至った場合,側副血行路の発達により必ずしも心筋壊死には至らず,また急性心筋梗塞の発症に至った冠動脈の責任病変は,必ずしも有意狭窄を有していないことが明らかにされ,現在では,冠動脈の動脈硬化病変のプラーク破綻による急速な血栓形成により血流が途絶し心筋梗塞に至ると考えられ,ACSの発症阻止に向けて,プラーク破綻を起こす不安定プラークの早期診断と治療,特に不安定プラークの安定化が,臨床医学上の大きな課題となっている.プラーク安定化を目指す治療法として,血清脂質の管理,具体的には強力なスタチンを用いて,血清LDL-Cを70mg/dLで維持する積極的脂質低下療法が基本的なプラーク安定化療法として確立しており,診療ガイドラインなどでその周知徹底が図られている.
一方,冠動脈プラークの画像診断技術の大幅な進歩により,積極的脂質低下療法で血清LDL-Cが十分低下しているにもかかわらず,冠動脈プラークが進展し不安定化するという予想外の症例が散見されるようになり,『スタチンパラドックス』という新たな病態に注目が集まっている.本稿では,当院で経験したスタチンパラドックスの症例について紹介し,その診断と治療について述べ,さらにスタチンパラドックスの病態について最新の知見を踏まえて考察を加える.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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