欧米型の食生活が世界的に広がるとともに,動脈硬化の進行に伴う心血管疾患は増加し,その罹患率および死亡率は高まってきた.これまで長年にわたって多くの基礎研究や臨床研究が世界中で実施され,動脈硬化症の発症機序については多くの知見が得られた.そのなかでもエストロゲンは,閉経前の女性において,心血管の保護因子として重要な働きをしている.しかし,ホルモン補充療法は,これまでの血管生物学的知見とのギャップを示し,心血管イベントの発症を減らさなかった.これは,動脈硬化の分子機構は複雑で,その一つひとつにおいて性差が存在し,生体に備わった巧妙なバランス制御によって血管の恒常性が維持されていることを示している.さらなる病態生理学の理解により,性差に根差したより理想的な治療法開発への道を拓くことが期待される.
「KEY WORDS」動脈硬化,性差,虚血性心疾患,心血管疾患