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特集 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012

特集にあたって

寺本民生

The Lipid Vol.24 No.1, 12-13, 2013

動脈硬化性疾患とは, 主として心血管疾患と脳血管疾患を指しているが, 最近は末梢動脈硬化性疾患を含めたmultiple vessel diseaseとして認識されている. その原因は多岐にわたり, それゆえに危険因子とよばれ, 危険因子の数が動脈硬化性疾患発症の決定因子となっている. わが国における動脈硬化性疾患の最も高頻度にみられる(た)のが, 脳血管疾患である. 1960年代をピークに脳血管疾患による死亡率は減少し, 最近はほぼ心血管疾患と肩を並べるところまで減少した. これは1960年代に盛んに行われた食塩摂取制限という食習慣の是正キャンペーンにより, 高血圧の頻度が減少し, それゆえに脳出血が劇的に減少したことによる. 食事指導が成功した顕著な例である. 心血管疾患については, 戦後徐々に増加し, 脳梗塞も2000年以降, 決して減少はしていない(喫煙率が減少し, 高血圧が管理されているにもかかわらず減少していないのである). このような動脈硬化性疾患の危険因子として, 高血圧にかわって問題になったのがLDLコレステロール(LDL-C)や肥満・糖尿病の問題である. アメリカではすでに1960年代に心筋梗塞予防のための, 禁煙指導, コレステロール低下食(コレステロール制限とともに飽和脂肪酸制限), 食塩制限などの徹底したキャンペーンがなされた. その結果, 心筋梗塞死は50%の減少, 脳血管疾患死は60%の減少を観察している. このように, 生活習慣の改善による疾病コントロールができるという発想はきわめて重要である. そのためには, その裏付けとなる科学的根拠が重要である. このような科学的根拠をもとに, 広く一般医療に利用していただけるガイドラインが作成されるのである. わが国では, 1987年に高脂血症に関するコンセンサス・カンファレンスが行われ, そこでは高脂血症の診断基準値が提案された. これは, 専門医のコンセンサスに基づくものであり, 必ずしもわが国のエビデンスに基づいたものではないが, 先駆的な提案であった. その翌年, 1988年に米国ではNational Cholesterol Education Program(NCEP)が発表され, エビデンスに基づいた系統的なガイドラインとして評価された. また, 1993年, 2001年とNCEPは二度にわたってその後に発表されたエビデンスを考慮した形で改訂を加え, 2004年には, 直近のエビデンスを踏まえ一部改訂を行っている. この考え方は, わが国の臨床にも大きく影響を与えたが, 環境の異なるわが国独自のガイドライン作成の要望が高まり, 1997年に『高脂血症診療ガイドライン』が一定のエビデンスをもとに作成された. その後, 久山町研究や, Japan Lipid Intervention Trial(J-LIT)の発表により, 危険因子の考え方がわが国でも立証され, 危険因子を考慮したガイドラインとして『動脈硬化性疾患診療ガイドライン』が2002年に発表され, わが国のガイドラインの大きな枠組みが形成された. さらに, わが国におけるNIPPON DATA80という疫学調査研究やMEGA Study, JELISなどの治療エビデンスをもとに, 『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版』が発表された. ここでは, 高脂血症を脂質異常症とし, 診断基準では, 総コレステロール(TC)よりも, LDL-Cを中心に置いた. これは, LDL-Cが最も深く動脈硬化発症にかかわっているという科学的根拠もさることながら, わが国の特異性があり, HDL-Cが高いためにTCが高く「高脂血症」と診断されることを回避する目的もあった. また, 動脈硬化性疾患の増加を予防することを強調し, あえて, 診断基準, 管理目標値は変更せず厳しいものにとどめられた. また, 肥満対策としてのメタボリックシンドロームについても言及し, 肥満対策や喫煙対策の重要性についても言及された. さらに女性や高齢者の特異性にも触れ, より繊細な診療を期待したガイドラインとなった. 今回改訂されたガイドラインでは, わが国の疫学調査研究の詳細が検討され, 診断基準の一部の見直しが行われた. また, 患者カテゴリーについてもわが国の疫学的研究の成果より絶対リスクに基づくより繊細な分類となった. さらに, 診療現場における治療実態も踏まえて, より実質的なガイドラインになった. 詳細は本特集を熟読いただきたい. 本特集では, 主として本ガイドライン改訂にあたって, 骨身を惜しまずご協力いただいた先生方から, 会議中の問題点も踏まえて記載していただいた. 先にも触れたように, ガイドラインは一般臨床に用いられなくては意味をなさない. 多くの第一線の先生方のお役にたてれば幸いである. それとともに, ガイドラインのさらなる質の向上のためにも多方面の先生方からのご意見をいただき, 次なる改訂に活かしていきたいものである.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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