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急性冠症候群研究の最前線

急性冠症候群の遺伝因子

佐藤洋

The Lipid Vol.22 No.3, 25-30, 2011

Summary
 虚血性心疾患の発症進展には,冠危険因子や生活・環境因子のみならず複数の遺伝的背景が関与している.Candidate gene approach(候補遺伝子アプローチ)や全ゲノム領域に配置した一塩基多型を用いて体系的に相関解析を行うgenome wide association study(GWAS)により,心筋梗塞の遺伝的リスク因子が明らかにされてきた.後者により,これまでの古典的危険因子とは別に炎症にかかわる遺伝的リスク因子であるリンフォトキシンαの多型などが注目されている.これらの新しい危険因子を虚血性心疾患の診断治療に役立てるためには,遺伝子多型研究と大規模臨床研究を融合させた薬理ゲノム学的,臨床ゲノム疫学的なアプローチが必須であり,OACIS研究など現実に進行しつつある.

Key words
●遺伝子多型 ●GWAS ●リンフォトキシンα ●個別化医療 ●OACIS

はじめに

 虚血性心疾患を始めとする循環器疾患の発症進展には,冠危険因子や生活習慣が大きく影響することは周知の事実である.しかし家族歴はかねてより重要な危険因子のひとつであり,生活・環境因子のみならず複数の遺伝的背景が関与しながら,疾患の発症や進展に影響していると考えられている1).現在,循環器疾患の発症にかかわる因子となる遺伝子を同定すべく多様な心疾患患者を対象に全ゲノム領域にわたる広範な多型解析(genome wide association study;GWAS)が行われている.一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)を中心とした遺伝子多型を用いて,疾患関連遺伝子を同定(マッピング)することはきわめて重要であるが,またその遺伝子情報を活用し,個々の患者のいわゆる体質とよばれている個人差を認識し,最適な治療法を選択するか,オーダーメード医療をいかに実現させていくのか臨床応用が注目されている.

急性冠症候群発症にかかわる遺伝的危険因子

 遺伝子多型を用いて疾患関連遺伝子を同定する方法は①direct approach,②indirect approachの二つに大きく分類できる.前者のdirect approach = candidate gene approach(候補遺伝子アプローチ)は,以前から行われている研究手法である.機能的に虚血性心疾患の発症にかかわる可能性があると予測される既知の遺伝子(候補遺伝子)を対象とし,遺伝子上の遺伝子多型を用いて相関解析や連鎖解析を行う.Apolipoprotein E,apolipoprotein(a),methylenetetrahydrofolate reductase,angiotensin-converting enzyme,coagulation factor Ⅶなど多数の遺伝子と虚血性心疾患の発症・進展との関連が報告されている.本法は,機能が判明している遺伝子が対象であるため,その遺伝子の機能解析へのアプローチが比較的容易であるが,あくまでも既知の遺伝子が対象であるため未知の遺伝子は検索の対象からもれるし,機能が判明している遺伝子自体も少ないのが現状であるため遺伝子の存在がわかっていても候補とならないという方法論上の問題点がある.
 一方,家系を集めて連鎖解析を行い染色体上の遺伝子座を絞り込むポジショナルクローニング法や,最近注目をあびている全ゲノム領域に配置したSNPsを用いて体系的に相関解析を行うGWASがindirect approachにあたる.Ozakiらはわれわれと共同で生活習慣病のGWASを世界に先駆けて成功させた.心筋梗塞の発症にかかわる遺伝的危険因子として,大阪急性冠症候群研究会(OACIS)の急性心筋梗塞患者1,133人と1,006人(正常対照1),872人(正常対照2)の症例対照研究を行い,リンフォトキシンα(LTA)の機能的遺伝子多型(252A→G)が心筋梗塞発症のリスク増大と関連することを報告した.すなわち,イントロン1領域に存在するLTA252Gのホモ接合群では梗塞発症のリスクが約1.8倍に増大していること,さらに機能解析によりこの252A→G多型によりLTA転写活性が上昇すること,連鎖するエクソン領域804C→A多型はアミノ酸変異(Thr26Asn)を伴い,より活性の高いLTAが誘導されることを報告した2).さらに,LTA結合蛋白であるガレクチン-2(LGALS2)について機能解析を行い,LTAが細胞外分泌される際の担体としてガレクチン-2が機能していること,およびその遺伝子多型(3279C→T)により転写レベルが変化し,LTAの細胞外分泌レベルが変化する可能性があること,3279Tホモ接合で心筋梗塞の発症リスクが1.57倍になることを報告した3).いずれの遺伝子多型も,LTAを介した炎症機転と関与することから,炎症感受性の個人差が心筋梗塞の発症にかかわる可能性が示唆される.さらにLTAのシグナル伝達にかかわるプロテアソーム(PSMA6)の多型も心筋梗塞発症にかかわることを見出した4).

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