糖尿病性自律神経障害,特に心血管自律神経障害は心臓突然死のリスクとなり,糖尿病患者の生命予後に影響する。心臓突然死の原因として,無痛性心筋梗塞,QT間隔延長,徐脈,致死性心室性不整脈などが示唆されている。糖尿病性心血管自律神経障害は,早期には副交感神経障害により,安静時頻脈,心拍変動の低下,Non-dipper型高血圧が認められる。進行して交感神経障害が主になると,起立性低血圧を呈するが,予後不良の合併症の1つである。
厳格な血糖コントロールによる心血管イベント(心血管死,非致死性心筋梗塞,非致死性脳血管障害)抑制効果を検討したACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)試験,ADVANCE(Action in Diabetes and Vascular Disease : Preterax and Diamicron Modified Release Controlled Evaluation)試験,VADT(Veterans Affairs Diabetes Trial)試験の3つの大規模臨床研究はいずれも,強化療法群での心血管イベントの有意な抑制効果を認めず,むしろACCORD試験において強化群で全死亡率が有意に増加した。原因として,強化療法群で観察された体重増加あるいは重症低血糖が死亡率の上昇に関与した可能性が議論された。
最近,ハイリスクの2型糖尿病患者において夜間の遷延性低血糖は,交感神経・副交感神経のバランスを乱し,QT間隔延長や重度の徐脈を誘発し,致死性不整脈のリスクを高める可能性が報告された。自律神経障害の存在は,無自覚性低血糖により低血糖を遷延化させ,重症低血糖による致死性不整脈のリスクをさらに高める可能性がある。
「KEY WORDS」心血管自律神経障害/重症低血糖/心臓突然死/QT間隔延長/致死性不整脈