糖尿病でケトン体が増加するのは,インスリンが減り血糖の利用が低下する時に,代替エネルギー源として肝臓で脂肪を分解して合成されるからである。ケトン体はアセト酢酸,アセトン,β-ヒドロキシ酪酸(β-hydroxybutyrate:βOHB)の3つを合わせた総称である。「日本人の食事摂取基準」1)の推奨する炭水化物が総摂取エネルギーの50~65%(中央値57.5%)の条件ではケトン体の血中濃度は数十µM以下である。人体にはエネルギー源として多量の脂肪が蓄積されているが,肝臓の糖質であるグリコーゲンは約半日分のエネルギーを支えるに過ぎない。そこで,糖尿病以外でも,絶食時や激しい運動時にはケトン体が形成され,各組織で好気的に代謝される。半日の絶食では脂肪をエネルギー源とするため,ケトン体濃度は200~300µMに増え,2日の絶食では6~8mM,極端な糖質制限で2~3mMと摂取基準の約千倍に激増する2)。また,激しい運動後にも1~2mMに達する。特に最近注目されているのは,腎Na依存グルコース輸送体2(SGLT2)の阻害薬であるエンパグリフロジンで,血糖値を適正に下げたEMPA-REG OUTCOME(Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes)試験で3年間に総死亡,心血管疾患,腎機能などに多面的に有効なことである3)。この阻害薬の24週間投与によってHbA1cの低下(-0.842%),減量(-2.4kg)の利点があるが,同時にケトン体の大部分を占めるβOHBの増加(110.0±194.65µmol/L)も伴う4)。高ケトン食による低血糖発作や交通事故の危険と軽度ケトン血症の利点も紹介する。
「KEY WORDS」β-ヒドロキシ酪酸,ケトアシドーシス,低血糖発作,脳障害,超低糖質食
「KEY WORDS」β-ヒドロキシ酪酸,ケトアシドーシス,低血糖発作,脳障害,超低糖質食