1980年代以降のBarkerらによる疫学研究から,「胎児期~新生児期の栄養環境が心疾患など成人病の発症と密接に関係する」との概念が提唱され,現在では,Barker仮説として知られている。このように胎児期の環境が成長後の疾患感受性を既定するという概念は「胎児プログラミング」と呼ばれるが,その後の研究により,このプログラミングの概念は発達過程(developmental)にある臓器の遺伝子がepigeneticな修飾を受け,その発現が正や負に調節されることにより成長後の臓器機能に影響し疾患感受性(健常性と疾患感受性)を規定する,という概念に発展し,現在ではdevelopmental origins of health and disease(DOHaD)と呼ばれている。そして最近は,この発達期のepigeneticな調節過程に介入することで,将来の疾患発症リスクを未然に防ぐという可能性が指摘されている。さらに,従来の疾患が発症してから治療する医療(curative medicine)に代わり,疾患の発症を未然に防ぐ先制医療(pre-emptive medicine)が提唱されている。
本稿では,DOHaDの概念を紹介するとともに,先制医療における胎児期~乳幼児期の栄養の重要性について概説する。