特集 アディポサイエンス・フロンティア
Ⅰ アディポサイエンス・ベーシック 腸内環境のフロンティア
Diabetes Frontier Vol.27 No.3, 302-308, 2016
「はじめに」われわれの腸管には,約100兆個,重さにして1kgもの細菌が棲息し,その菌種は数百にものぼると考えられている。このような多種多様な腸内細菌は,細菌同士や腸内環境との相互作用により複雑な生命システムを形成している。近年の研究で,宿主とその腸内細菌叢との共生関係が,宿主のエネルギー調節や免疫機能に関連する疾患の発症や病態に密接に関係することが明らかとなった。したがって,腸内細菌が宿主の恒常性維持に果たす役割が立証された結果,腸内細菌研究は医学・生物学的にも重要な領域として確立され始めた。さらに,腸内細菌をターゲットとすることは,従来までのプレ,プロバイオティクスおよびシンバイオティクスなどの食品としての機能性だけでなく,糞便移植(fecal microbiota transplantation:FMT)(細菌療法)による臨床応用にも,わが国を含め海外諸国で行われ始めている。本稿では,腸内細菌叢の変化とエネルギー代謝疾患との関連について,そして実質的な原因分子である腸内細菌代謝産物と菌体成分が宿主エネルギー代謝に与える影響について概説する。
「key words」短鎖脂肪酸,エネルギー代謝,肥満,糖尿病,腸内細菌
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。