「はじめに」糖尿病治療の目標は,血糖値を低下させることのみにとどまらず,最終的には患者の生活の質を保ち,健常人と変わらない寿命を全うしていただくことにある。一方,わが国の2型糖尿病患者の死因第1位は癌である(図1)1)。しかるに,糖尿病診療において,癌の検索をすることと,癌の発症・進展を促進しない治療法を選択することは,患者の余命を護る上で血糖コントロールと同様に重要といえる。それを踏まえ,日本糖尿病学会と日本癌学会は専門家による合同委員会を設立し,糖尿病と癌に関する委員会報告が出された2)。また,昨今矢継ぎ早に開発,臨床応用される抗糖尿病薬と癌の関係は,長期の安全性を考える上で重要と思われる。そこで本稿では,肥満2型糖尿病における癌の発症・進展を促進するメカニズムと抗糖尿病薬の癌に対する作用を検討する。
「key words」インスリン抵抗性,高インスリン血症,慢性炎症,アディポネクチン低下,酸化ストレス