特集 糖尿病強化療法―低血糖を巡る諸問題
特集にあたって
Diabetes Frontier Vol.25 No.4, 401, 2014
糖尿病診療は, その治療の最終目標が『合併症の進行予防に向けた高血糖の是正』でありながら, 常に低血糖とも戦わなければならないという二律背反の課題を抱えている. 薬物治療に基づく軽度の低血糖は患者の自覚を伴うか否かによらず, 食欲の亢進を介して体重増加を招きうる. 当然のことながら, このような二次的体重増加もインスリン抵抗性や大血管障害リスクを助長するため, せっかくの糖尿病治療の効果を減殺してしまうこととなる. 意識障害には至らない程度の低血糖ではあっても, 中等度以上のものが既存の(潜在する?)合併症を加速するのではないかとの危惧も現実のものとして認識されつつある. たとえば前増殖網膜症以上の網膜症のさらなる進行や硝子体出血, 有痛性神経障害, 認知症, 脳血管障害や虚血性心疾患の急性増悪などであるが, これらの背景には低血糖発作の関与が強く疑われている. 一方, 意識障害に至る重症低血糖は患者とその周辺に強く影響を及ぼし, 患者の社会活動に大きな制約を加えることになる. とりわけ明確な低血糖症状を呈することなく, あるいは症状発現から急速に意識レベルの低下に至る, いわゆる無自覚性低血糖は, 患者自身はもとより社会的にみてもきわめて危険な低血糖である. 日本糖尿病学会でも, 『糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会』を結成し, その実態調査を開始したところである. 本特集では, 重症低血糖の実情とそのリスク, 低血糖が既存の糖尿病合併症に及ぼす影響とその対策, さらには低血糖を可及的に回避しながら良好な血糖コントロールを目指す新たな治療コンセプト, とりわけ先進的なインスリン治療戦略などについて, 各領域のオピニオンリーダーに最新情報をまとめていただいた. 専門医, 実地医家や糖尿病診療に携わる関連医療職にとって有益な情報であることはもとより, 患者とその周辺の方々の福音ともなれば幸いである.
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。