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特集 小児・思春期糖尿病の最近の動向

特集にあたって

雨宮伸

Diabetes Frontier Vol.23 No.6, 653, 2012

日本人小児1型糖尿病は欧米に比べその発症率は低く, 疫学的・臨床的エビデンスが不明確なことが多い. その原因は単に発症率の低さのみならず, 少数症例の患者を診ている施設が多いことにも起因している. 日本の総人口を考えれば, 日本人小児1型糖尿病をもつ患児は決して少なくないはずである. 米国のDCCT研究における強化インスリン療法と血糖管理指標確立の重要性がわが国の小児科医でも広く認識され, 1994年以来日本小児内分泌学会の会員施設有志により多施設共同観察研究と情報交換の場として小児インスリン研究会が継続活動している. これら活動を通して, 日本人小児1型糖尿病の血糖管理は確実に改善し, また治療における情報交換もエビデンスをもって行えるようになってきている. 観察研究のコホートも2013年2月までに第3コホートが終了し, 新たに第4コホートに移行する. 第3コホートでは遺伝的素因の探索が行われ, 患児・親・同胞のトリオの解析も行われ, 日本人小児1型糖尿病の遺伝学的特性が得られた. また, 1型糖尿病に紛れ込んだ単一遺伝子糖尿病の存在も明らかにされた(本誌表紙参照). 新生児糖尿病や従来のMODYに関する日本人小児における疫学・臨床的研究も次第に充実してきている. 一方, 思春期以降1型糖尿病より発症率が高くなると考えられる2型糖尿病については, その疫学的・臨床的エビデンスはいまだ乏しい現状である. 2型糖尿病の要因には遺伝的背景に世代をわたる環境要因の関与が指摘されているが, 残念ながらまだ系統的な解析は行われていない. 日本人・アジア人種は欧米より2型糖尿病は非肥満でも発症するリスクは高いと予測されており, また思春期における急激な発症率増加に対する成人への継続的医療提供に多くの問題を抱えている. 特に, 肥満への対応のみならず, 良好な血糖管理の維持にはリスクに応じた適切な薬物療法の重要性が米国での肥満小児2型糖尿病での大規模研究(TODAY)で明らかにされてきている. 患児の生活習慣の是正には, 社会・経済的支援が不可欠なことも課題である. 国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)やWHO/IDFでも国際的交流の重要性は認識され, コンセンサスガイドラインの提供やDAWN Youth活動がある. 国内では2012年より日本小児思春期糖尿病研究会(JSPAD)が小児科医のみならず内科医を含めたオープンな学会として衣替えするので, 日本人小児におけるエビデンスの確立が期待される.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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