「I. 糖尿病合併妊娠と糖尿病網膜症」糖代謝異常妊娠のうち, 糖尿病網膜症(以下, 網膜症)の管理のうえで問題となるのは糖尿病合併妊娠である. 糖尿病合併妊娠では, 母体高血糖により母児に種々の合併症が起こる. 母体では, 糖尿病性腎症と網膜症の悪化がしばしば認められる. 一方, 網膜症の悪化因子として, 糖尿病罹病期間, 高血糖, 高血圧などあるが, 妊娠も悪化因子の1つとされている. 網膜症の悪化の成因として, 血中ホルモンの変化, エストロゲンやプロゲステロンなどの胎盤ホルモンの増加, インスリン様成長因子が増加, 血糖コントロールの変化, 血液凝固能の亢進などがあげられる. 最近は計画妊娠および糖尿病合併妊娠の管理の向上により, 網膜症の悪化も軽減している. 一方で, 妊娠中の血糖の厳格な管理のために, 網膜症が一過性に悪化するケースがみられる. 通常の網膜症においてもしばしば遭遇するearly worsening, すなわち, 厳格な血糖コントロールによる一過性の網膜症の増悪が, 糖尿病合併妊娠においても認められている.
「key words」糖尿病網膜症,妊娠,網膜光凝固,硝子体手術