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糖尿病と救急医療

重症低血糖に対する対処法と注意点

松久宗英黒田暁生

Diabetes Frontier Vol.22 No.6, 624-628, 2011

はじめに
 糖尿病患者に生じる意識障害として,低血糖昏睡が最も高頻度である。通常は血糖値が70mg/dL未満になると自律神経刺激症状が出現するため,患者自ら低血糖を認知し,重篤な意識障害には至らない。しかし,激しい運動時,アルコール多飲時,腎機能低下時,あるいは肝障害時など種々の生活状態と病態において,低血糖が遷延化し重篤化する。また,頻回の低血糖後や高度自律神経障害合併時には,インスリン拮抗反応が減弱するため,低血糖が無自覚化し重篤な意識障害を引き起こす。また,β遮断薬内服時にも交感神経刺激症状が生じず,中枢神経症状が急に出現し意識障害に至る。多くの場合は,糖質の補給により急速に低血糖から回復するが,自殺企図などによる大量のインスリン投与時や経口血糖低下薬の内服時,あるいは意識障害の発見が遅れた場合は,不可逆的脳障害から死に至る場合もある。本稿では,低血糖時の生体反応と,無自覚性低血糖について述べ,救急の現場の注意点と治療法について解説する。

key words
無自覚性低血糖/遷延性低血糖/インスリン自殺/低血糖脳症

Ⅰ.低血糖時の生体反応

 ブドウ糖は中枢神経系の最も重要なエネルギー源である。空腹時,脳は肝臓が産生する半分に相当する1mg/kg/分のブドウ糖を利用する。長時間の絶食状態では,脳はブドウ糖以外にケトン体を利用できるが,インスリン濃度の上昇を伴う低血糖時には,ケトン体生成も抑制されているため,重度の代謝障害に陥る。中枢神経系へのブドウ糖供給を維持するため,低血糖に対し何重もの防御機構が備っている。まず,動脈血糖値が81mg/dL以下に低下すると膵β細胞からのインスリン分泌が抑制され,それ以上の血糖降下を防ごうとする(図1)。

さらに,血糖が70~65mg/dLまで低下すると,インスリン拮抗ホルモンであるカテコールアミン,グルカゴン,成長ホルモン,コルチゾールが分泌される1)。この分泌反応の中枢は,視床下部の腹内側核とされる。エピネフリンとノルエピネフリンのカテコールアミンは,インスリン分泌抑制を介して末梢組織の糖利用を抑制し,同時に肝臓と腎臓からの糖産生を亢進させ,中枢神経系への糖供給を促進する。また,脂肪分解を促進し,肝臓へ糖新生基質を供給し,筋肉へは脂肪酸やケトン体を供給する。グルカゴンも肝臓の糖産生を亢進し,脂肪分解を促進させる。これらの反応は,低血糖時の速やかな血糖上昇応答に必要とされる。一方,成長ホルモンやコルチゾールの血糖上昇反応は,分泌後数時間後に発現するため,低血糖時の急性応答よりはむしろ長時間絶食時の血糖恒常性維持に重要と考えられる。
 低血糖時の症状は,自律神経症状と中枢神経症状に分けられる。自律神経症状として,副腎髄質から分泌されるエピネフリンと交感神経線維末端から分泌されるノルエピネフリンにより振戦,動悸,頻脈が生じ,アセチルコリンを介して空腹感,発汗が引き起こされる。低血糖が進行すると,中枢神経症状として脱力感,眩暈,頭痛,錯乱,視力・視野障害,複視などが現れ,さらに進行すると片麻痺,低体温に至り,最後には意識障害,痙攣,そして死亡に至る。

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