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糖尿病網膜症診療の最前線

糖尿病網膜症における内科眼科医療連携:放置・中断対策

堀貞夫

Diabetes Frontier Vol.22 No.4, 406-410, 2011

Ⅰ.失明予防対策のための医療連携の重要性
 糖尿病網膜症(網膜症)の発症や進展に血糖コントロール大きく関与することがわかっており1),内科医が糖尿病合併症予防に大きな役割を担っている。網膜症がある段階を超えた病期に至ると,血糖コントロールだけでは進展を抑制することができなくなり,眼科医による手術的治療が有効になる。内科医と眼科医それぞれが,最大限の知識と知恵を駆使して網膜症による失明予防を実践している。内科医が行っている血糖コントロールが,網膜症の発症・進展に対して有効な効果をあげているかを確認するために,眼科医が精密眼底検査を行って血糖コントロールの維持や変動に関する効果判定をしている。この連携がなければ,内科医は今の血糖コントロール状態が網膜症にどの程度の影響を及ぼしているかが判断できない。

key words
糖尿病網膜症/内科眼科連携/放置・中断対策/糖尿病眼手帳

Ⅰ.失明予防対策のための医療連携の重要性(続き)

内科医が真剣に血糖コントロールに取り組み,患者の治療に対する自覚が高まった時に,それまで良好でなかった血糖コントロールに急速な改善が得られことがある。そのような場合,まれにではあるが網膜症が急速に進展することがある2)。急速な血糖コントロールが見込まれるときには,眼科医が通常よりも頻回に眼底検査を行って,網膜症の進展の有無を確認しないと高度の視覚障害に陥る可能性があり,内科医と眼科医の連携が必要となる。一方,眼科医が施行できる最大限の治療を行っても全く効果が出ない病状,特に黄斑浮腫の場合などでは,腎機能不全が伴われていることがあり,全身の浮腫をきたすような病期に至って血液・腹膜透析(透析)を始めると,全身の浮腫の改善ともに黄斑浮腫が軽快することがある3)。腎機能不全が進行し透析を内科医から勧められている患者は,ときにそれを受け入れたくなくて拒否することがある。この場合,黄斑浮腫が改善して視力が回復する可能性があることを眼科医から話すと,透析を受け入れる患者がいる。腎機能不全に関して内科医と眼科医が連携することにより,視覚障害の改善が見込まれることになる。
 日常の外来診療における連携とは別に,周術期の内科眼科連携の問題がある。眼科の手術前の血糖コントロールは,以前は大きく制約されてHbA1c値が良好でないと手術の実施は推奨されないことがあった。しかし,血糖コントロールの改善を待つ間に病状が進行する可能性があり,また急速な血糖コントロールを術前に行うとかえって網膜症が進行することがあるなどの問題点が指摘されている4)。出血や感染に関して十分な注意を払って行われる最近の眼科手術,特に小切開で短時間に行われる白内障手術では,極端な血糖コントロール異常がない限り手術を差し控えることは必須ではないかもしれない。ただし,手術前後の患者が受けるストレスは血糖値の変動にかかわる可能性があり,術後に使うステロイド薬の結膜下注射は血糖値を上昇させる。術直後の血糖値の上昇にはインスリンを使ってスライディング法で管理することが多いが,このときには患者の全身的なことをすべて勘案したうえで,1人ひとりに特定した対処法が望まれるので,内科医の綿密な指導を受けて実施しなければならない。
 内科医の診療が患者の視機能にもたらす影響と,眼科医の診療が患者の全身管理にもたらす影響は,連鎖して効果を発揮することになり,内科眼科の医療連携の重要性が指摘される。

Ⅱ.医療連携の実情

 内科医による血糖コントロールと眼科医による定期的診察が,それぞれ望ましい形で行われているか,またそれぞれの診察結果つまり血糖コントロール状況と糖尿病眼合併症の診察結果が,内科医または眼科医にうまく伝えられているか調べたことがある5)。眼科医にアンケートの形で回答してもらい,勤務医と開業医のそれぞれについて調査した。この結果から導かれた主な結論は,①内科医と密接な連携を行っているのは40%に過ぎない,②内科との適切な連携システムがない,③眼科受診中断に対する対処が消極的である,という3項目であった。一方,患者に対する聞き取りアンケート調査を行って,受診中断に関する意識を解析した6)。患者が内科に受診したときにさまざまな質問事項に答えてもらい,答えた患者が眼科受診を中断していないか診療録を検索して調査した。この結果から得られた結論は,眼科受診中断に関わる患者に対するアンケートの質問内容の中で,「自分には糖尿病による眼の病気はない」という意識に唯一有意差を認めた。これらをまとめると,眼科医の側では積極的に中断患者に対応することが少なく,その理由は内科医と連携する適切な手段またはツールがないこと,患者の側では自分に限って糖尿病網膜症を含む眼の病気はないはずだという思い込み,これらが糖尿病患者の眼科受診を放置・中断させる原因になると推測された。この調査結果は今から約10年前の状況であったが,これと類似した調査結果は他にもいくつか報告されていた7)8)。

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