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糖尿病連携パスを巡る諸問題

Ⅱ ITを利用した糖尿病地域医療連携パス 電子化糖尿病地域医療連携パス

平井愛山

Diabetes Frontier Vol.22 No.2, 169-175, 2011

I.糖尿病の地域連携はなぜ必要か
 急増する糖尿病に対して,病院の糖尿病専門医のみが受けもつ時代は終わった。病院勤務医が不足し,医療過疎が深刻化している地域では,これまでの病院勤務医と診療所医師の役割分担を再度見直し,より一層の機能分担を進め,連携強化を図ることが地域医療の再生には不可欠である。当面の課題は,糖尿病診療にかかわる地域の医療機関の平準化とレベルアップである。具体的には,中核病院の糖尿病専門外来から診療所の非専門医へ技術移転することにより,診療所でもインスリン自己注射患者の管理が可能になることである。さらに,患者1人ひとりの病態に最適化した糖尿病診療が,非専門医のかかりつけ診療所において可能になることである。糖尿病の医療連携は,連携する病院とかかりつけ診療所の間で,診療情報の共有とともに,インスリン療法を含む糖尿病診療が同じレベルでシームレスに継続することが何よりも不可欠である。

key words
疾病管理マップ/診療連携パス/糖尿病疾病管理/電子化パス/循環型医療連携

I.糖尿病の地域連携はなぜ必要か(続き)

 ここで,当院がこれまで進めてきた糖尿病の地域連携システムの構築の取り組みの流れを紹介する。小生が院長で着任した今から12年前,当院が位置する千葉県山武医療圏の糖尿病診療の問題点としては,糖尿病壊疽による下肢切断件数が著しく多く,しかも切断患者の3人に1人は未治療であり,HbA1c(JDS値)が8.5%以上といずれも,糖尿病コントロールが不良であることがあげられていた。その原因としては域内の糖尿病専門医はわずかに3名で,診療所医師はすべて糖尿病非専門医であり,インスリン療法の糖尿病患者の治療を引き受けている診療所はわずかに1ヵ所にすぎなかったことから,糖尿病治療の提供体制の不足によることは明らかであった。この課題の解決のために,当院は病診連携を基盤に,病院から診療所へ糖尿病診療の技術を移転し,病院と診療所が一体となって,地域の糖尿病診療の向上に取り組むことを最優先の課題とした1)。
 当院がこれまで最も力を入れてきたのは,地域の診療所の糖尿病非専門医へ病院専門医の診療のノウハウを技術移転するのに際して,緊密なヒューマンネットワークを作ることだった。そのために,糖尿病を含む診療所からのさまざまな紹介患者の症例検討を中心とした臨床カンファレンス(イブニングカンファ)を定期的に開催し,病院医師と診療所医師の間で顔のみえる関係を作った2)。2001年から,糖尿病診療技術の継続的ティーチインの場として,診療所医師を対象とした定期的な糖尿病勉強会を開始した。その際,糖尿病非専門医がエビデンスに基づいた糖尿病診療を実践するために,米国で地域医療を担う家庭医への技術移転を主な目的に開発され松岡らによってわが国に導入されたプライマリ・ケア医向けの糖尿病治療マニュアル(Staged Diabetes Management : SDM)を活用することとし,定期的勉強会の名称を“山武SDM研究会”とした3)。
 同研究会は,現在までに30回以上開催し,インスリン療法をはじめさまざまな糖尿病診療の技術移転を図ってきた。また,一部の熱心な診療所には,病院のスタッフが出向いて意見交換したり,小規模ながら,協力的な患者にお願いして病院と診療所を相互に受診してもらい,診療所医師に実際の症例を目の当たりにすることにより診療技術を磨く機会を作ることも行った。そして定期的勉強会が23回を迎えた2007年に行ったアンケート調査では,インスリン療法を実施している診療所は36 ヵ所に大幅に増加し,その患者数も450名と東金病院単体でみているインスリン療法患者数とほぼ同数のレベルになった。このことは勉強会開始から6年間かけて,地域の36の診療所が一体となって,糖尿病専門医2名が勤務する東金病院と同程度の規模の糖尿病外来をもつバーチャルホスピタルとして機能していることを意味している。またSDMを用いた定期的糖尿病勉強会が,当初の目的であるかかりつけ診療所へのインスリン療法の技術移転にきわめて有効であったことを示している4)。

II.糖尿病診療に適した循環型地域医療連携の取り組みと地域連携パスの導入

 2005年より,診療所への技術移転が一定のレベルに達したことを確認した上で,新たな地域医療連携の形として,循環型の地域医療連携システムを構築しその試験運用を開始した。循環型の糖尿病医療連携システムを模式図で示したのが図1である。

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