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糖尿病連携パスを巡る諸問題

Ⅰ 地域における糖尿病医療連携パスの現状 自治体主導の千葉県共用連携パス作成過程からみえてくる糖尿病治療戦略の課題

江本直也

Diabetes Frontier Vol.22 No.2, 149-153, 2011

はじめに
 千葉県では2008年から県内で共通の糖尿病地域医療連携パスを作る試みが開始された1)。自治体主導の連携パスは全国でもきわめてユニークな試みであり,それだけに他の地域連携とは異なった問題が浮かび上がることとなった。本稿では作成ワーキンググループの1委員の立場から私見として千葉県共用地域医療連携パスの作成経過と,その過程での議論からみえてきた糖尿病治療の問題点について報告する。

key words
地域連携パス/自治体/保健医療計画/バリアンス

Ⅰ.トップダウン式の全県連携議論からみえてくるもの

 2007年に施行された第五次医療法改正を受けて,2008年に千葉県保健医療計画が策定され,その中に循環型地域医療連携システムの構築,特に「がん」,「脳卒中」,「急性心筋梗塞」,「糖尿病」の4疾患については役割分担を明確化した上で具体的連携のツールとして地域医療連携パスによる連携構築が明記された。この方針に基づいて千葉県と千葉県医師会との協働により4疾患それぞれに専門医,基幹病院,診療所医師などからなるパス作成ワーキンググループが作られ,具体的な連携パス作成に着手した。このようにトップダウン式に千葉県全体の議論を,なかば強制的に始めてみると,さまざまな興味深い問題が浮かび上がってくる。まず糖尿病連携以前に,医療連携とは何か。最も基本的なことでありながら,このレベルでも認識が一致しないことがある。地域医療連携とは地域において複数の医療機関がある疾患の治療法についてコンセンサスを形成して地域内で治療を標準化し,それぞれの医療機関の役割を明確にしたものである。医療連携パスはその連携による医療行為を可視化して関係者がその状況を把握するとともに成果を評価可能にしたツールである。その必要条件については野村によって示されているが2),本質は効率化と質の確保の両立にある。千葉県における糖尿病医療連携は,近年の糖尿病患者の増加により,県内の専門医だけでは,すべての糖尿病患者の受け持ちになることが物理的に不可能であることが前提となっている。すなわち,非専門医への技術移転により,できるだけ多くの患者に糖尿病治療を提供するということが連携の目標であり,パスは連携医療の質を確保するためのツールとして位置づけられた。当然のことながら,千葉県内の二次医療圏ごとに人口,専門医,非専門医,あるいは大病院,診療所の数も比率も大きく異なるため,医療連携の役割分担についても地域ごとに異なったものとなる。それぞれの委員が自分の地域の状況を念頭に議論するため,統一的な役割分担の議論は全く噛み合わなくなってしまった。具体的な役割分担を考える上では600万人の人口を擁し,人口10万人あたりの医師数が二次医療圏ごとに97人から290人と3倍もの開きがある千葉県という単位は大き過ぎることが判明した。最終的に千葉県共用地域医療連携パスでは適応基準,除外基準,バリアンスの設定などの具体的項目は地域ごとに決めることとして,可変性をもたせることを重視することとなった。

Ⅱ.千葉県共用地域連携パスの実際

 さまざまの議論を経て,2009年4月に最初の千葉県共用糖尿病地域医療連携パスが公表され,2010年4月に改訂されたものが公表された。これは千葉県共用地域医療連携パスのホームページでダウンロードできる(http://www.renkei-path.org/ 閲覧には登録が必要)。図1に診療計画表を示す。

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