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糖尿病連携パスを巡る諸問題

Ⅰ 地域における糖尿病医療連携パスの現状 糖尿病疾病管理のための地域医療連携クリティカルパス

小林邦久中島直樹井口登與志髙栁涼一名和田新

Diabetes Frontier Vol.22 No.2, 130-135, 2011

I.わが国における糖尿病の現状
 厚生労働省の「平成19年国民健康・栄養調査結果」によれば「糖尿病が強く疑われる人」は890万人であり,「糖尿病の可能性が否定できない人」をあわせると2,210万人を突破していることが判明した1)。さらには「糖尿病が強く疑われる人」の中でも約半数が無治療であるとされており,将来多くの合併症を発症してくることによる国民医療費増加や社会生産力低下は,少子超高齢社会における巨大負担となることが予想される。

key words
疾病管理/地域医療連携/クリティカルパス/重ね合わせ法/コールセンター

II.糖尿病治療の現状と問題点

 前述の状況に対して現在,糖尿病専門医は約4,000人に過ぎず,糖尿病専門外来は長時間待ち・短時間診療が常態化している。そのため医療者は患者の病態および心理状態についての把握が十分にできないうえ,患者との信頼関係の醸成も難しく,患者の通院脱落の原因の1つとなっている。
 第二の問題は,糖尿病患者の通院率が約50%に過ぎない現状においてさえ,専門医が診療している糖尿病患者は全体の4分の1以下であり,残りは非糖尿病専門医であるかかりつけ医に通院しているということである。日本糖尿病学会は最新の基礎・臨床研究に基づき「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」2)や「糖尿病治療ガイド」3),「糖尿病治療のエッセンス」4)などを作成し,医療従事者への知識の普及を目指している。しかし,非専門医にとって,他の疾患の多くの患者も診療する忙しい外来の中でガイドラインに則った糖尿病診療を施行することは難しく,また日進月歩の検査・診断技術に対する知識を常に最新のレベルに保つこともまた困難であるため,最新の医療知識・知見が十分に患者に還元されていない憾みがある。
 第三の最大の問題は,「なにもせずに,食べたいだけ食べ,きついことはしないでおきたい」というヒトの動物としての本能が,飽食の時代の生活習慣病の主因であり,また治療に対する最大の障壁であることである。すなわち,従来の医療のように患者の自己努力にのみ依存するのではなく,治療意欲を維持・増進させるための介入を積極的に続ける必要があると考えられる。

III.米国におけるマネージドケアの問題点とディジーズマネジメント(疾病管理)

 米国において医療費高騰の沈静化と医療の標準化とを目指して導入されたマネージドケアとは,保険者がその治療費や薬の品目にまで具体的に立ち入って管理し,制限することで医療費の抑制を図る管理医療手法を用いた医療保険制度の総称である。しかしながら,「不必要・不適切な医療を防ぐ」よりむしろ「医療コストを抑制する」傾向が認められ,医療の質の低下につながったと指摘されてきた。その反省から生まれた疾病管理は米国の「Care Continuum Alliance」による定義5)では,「自己管理の努力が重要であると考えられる患者集団のために作られたヘルスケアにおける働きかけ・コミュニケーションの統合システム」であり,以下の役割・特徴をもつものとされている。
①医師-患者関係と医療の計画とをサポートする。
②エビデンスに基づく診療ガイドライン利用や患者エンパワーメント戦略により病状悪化や合併症を防止することに重点を置く。
③総体的な健康の改善を目標として,臨床的・人間的・経済的アウトカムを継続的に評価する。
 米国では疾病管理会社が,糖尿病のみならず喘息や虚血性心疾患などに対して介入を行っている。その背景として,保険会社が契約に疾病管理を組み込んでおり,医療機関および患者とも疾病管理を拒否すると契約が結べないという強制力をもっていることがあげられる。
 しかしながら,国民皆保険およびフリーアクセス診療の日本においては,そのままのかたちでの輸入は不可能である。そこでわれわれは2006年から,生活習慣病(糖尿病・耐糖能異常・メタボリックシンドローム)を対象に「かかりつけ医診療支援」および「患者edutainmen(t education+entertainment)」を強化した「日本型」疾病管理を行うことにより,かかりつけ医の診療支援および通院脱落防止を行い,さらには患者-かかりつけ医間の信頼関係の構築支援を通じて,生活習慣病の発症予防(一次予防)と,合併症発症・進展予防(二次・三次予防)のシームレスな実現を目的とする総合研究事業であるカルナプロジェクトを発足した(図1)6)-9)。

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