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基礎講座 ゲノミクス・プロテオミクス・メタボロミクス

Ⅰ ゲノミクス 糖尿病領域におけるGWASと全ゲノムシークエンス

堀川幸男

Diabetes Frontier Vol.22 No.1, 87-93, 2011

はじめに
 人類は,生命設計図であるヒトゲノムを読破したのち,遺伝子タイピング技術を進歩させ,全ゲノム関連解析(Genome-Wide Association Studies ; GWAS)を可能にした。この大規模関連解析により現在まで約20~30 種類の遺伝子多型で2型糖尿病発症との関連が認められ,人種,民族を超えた高頻度,低浸透率の糖尿病感受性アリルが存在することが証明された。しかし従来の糖尿病発症の臨床危険因子(年齢,肥満,家族歴など)に比べて,遺伝子多型の発症予測における有用性は現時点では低く,依然40~60%といわれる遺伝率のほんの数%しか説明できない。今後は,GWASでは獲得できなかったと考えられる低頻度,高浸透率の糖尿病原因アリル同定に関心がシフトすると考えられる。これには,表現型の均質なサンプル集団と革新的技術の結集である次世代シークエンサーが必須であり,全ゲノムシークエンス,なかでも全エクソンシークエンス(エクソーム)による,エクソン変異の探索が鍵となる。もちろん同時に,遺伝子配列変化を伴わないエピゲノム変化も含めて遺伝素因解明を進めていくことが重要であることはいうまでもない。

Key Words
GWAS SNP 次世代ゲノムシークエンサー エクソーム エピゲノム

Ⅰ.2型糖尿病GWASの実際

 GWASには適切な検出力(1-β)を有するサンプルサイズや有意水準(α)の設定など研究デザインが重要である。従来Bonferroni補正のように0.05を検定数で割ってαを設定する多重検定補正がよく適応されてきた。

事後オッズ=事前オッズ×尤度比
尤度比=真の陽性率/偽の陽性率=
検出力/有意水準=感度/1 -特異度


で表される。たとえば,ある糖尿病遺伝子多型の事前オッズを1 × 106オーダー(百万個)の中から10個の遺伝子多型が真の関連があるくらいとすると,事前オッズは1 × 10-5のオーダーと予測される。そのときの検出力(1-β)を0.5 とし,有意水準(α)を5 × 10-7と設定すれば,その糖尿病遺伝子多型を検出する事後オッズは10 となる。すなわち候補として同定された遺伝子多型は約91%,真の関連がありうる遺伝子多型ということになる1)。単一のGWASでこの基準をクリアできたのは,TCF7L2,FTO,KCNQ1のみである2)-5)。現在までで最もORが大きい1.4 程度を呈するTCF7L2,KCNQ1で考えてみても,αを前述のように設定すると80%の検出力を得るためには最低で1,400 人ずつくらいの患者,対照者のサンプルが必要になる計算になる。現在ではケース・コントロールそれぞれ3~5千人スケールの関連解析が多く報告され検出力は満たしているが,今度はかえってサンプルの異質性をあげている可能性についても考慮しなければならない。

Ⅱ.2型糖尿病GWASから判明したこと

 GWASからわかったことは,予想に違わず2型糖尿病は異質性疾患であり,当初の予想よりも多くの感受性遺伝子が存在することであった。しかもそれぞれの遺伝子効果(オッズ比)・浸透率は低く,「主働遺伝子」は見当たらないことであった(図1)。

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