はじめに  近年,過栄養,運動不足,生活リズムの不規則化を背景として,非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)が急増している。その一部は肝の脂肪化に加えて炎症・線維化を呈する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に進展し,肝硬変・肝不全・肝細胞癌(HCC)の発生母地になりうる1)。NASHはメタボリックシンドロームの肝表現型として認識され,両者に共通する病態としてインスリン抵抗性が重要な役割を演じていることが推測されてきた。わが国のHCCの9割近くは,B型(HBV)あるいはC型(HCV)肝炎ウイルス持続感染を背景に有するが,インターフェロンなど治療法の確立によりウイルス感染起因のHCCは減少傾向にある。過去10 年間,B型,C型肝炎ウイルスマーカー陰性のNASHに起因するHCCが増加し,HCC全体の10%を超すようになった2)。  インスリン注射は肝疾患を伴う2型糖尿病患者に対する有効な治療方法である一方で,インスリンはin vitroで癌細胞の増殖を促進させる3)。そこでNASH合併糖尿病患者に対してインスリン注射は癌化を促進させるかについて,筆者らの成績を交えて考えてみたい。