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糖尿病と癌

TOPICS ③非アルコール性脂肪肝炎合併糖尿病患者に対するインスリン療法は肝癌発症を促進させるか

喜多裕樹竹下有美枝篁俊成

Diabetes Frontier Vol.22 No.1, 49-53, 2011

はじめに
 近年,過栄養,運動不足,生活リズムの不規則化を背景として,非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)が急増している。その一部は肝の脂肪化に加えて炎症・線維化を呈する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に進展し,肝硬変・肝不全・肝細胞癌(HCC)の発生母地になりうる1)。NASHはメタボリックシンドロームの肝表現型として認識され,両者に共通する病態としてインスリン抵抗性が重要な役割を演じていることが推測されてきた。わが国のHCCの9割近くは,B型(HBV)あるいはC型(HCV)肝炎ウイルス持続感染を背景に有するが,インターフェロンなど治療法の確立によりウイルス感染起因のHCCは減少傾向にある。過去10 年間,B型,C型肝炎ウイルスマーカー陰性のNASHに起因するHCCが増加し,HCC全体の10%を超すようになった2)。
 インスリン注射は肝疾患を伴う2型糖尿病患者に対する有効な治療方法である一方で,インスリンはin vitroで癌細胞の増殖を促進させる3)。そこでNASH合併糖尿病患者に対してインスリン注射は癌化を促進させるかについて,筆者らの成績を交えて考えてみたい。

key words
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)/インスリン療法/肝細胞癌/Bolus First

Ⅰ.NASHとインスリン抵抗性

 筆者ら4)は遺伝的肥満糖尿病OLETF(Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty rat)ラットの形質を導入,あるいは高脂肪食(HFD)を負荷し,インスリン抵抗性を導入することにより,NASHモデルを作製した。非肥満LETO(Long-Evans Tokushima Otsuka)ラットに比べ,NASHモデルラットでは肝の脂肪化と線維化が促進し,さらにHFDを負荷すると肝細胞変性像であるballooningを伴う強い炎症が生じ,線維化がさらに促進した。一方,インスリン抵抗性改善薬であるPPARγアゴニストのピオグリタゾン投与により,NASHモデルにおける肝脂肪化・炎症・線維化の病理像は顕著に改善した4)。すなわち,インスリン抵抗性はNASH病理を促進することがわかった。さらに,NASH患者においてインスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRと肝臓の脂肪化・線維化・炎症の病理像との関連を検討したところ,年齢,性,BMIで補正しても,肝病理像はHOMA-IR値と有意に関連した5)6)。

Ⅱ.NASHからHCCに至る機序

 NASHの原因である肥満・糖尿病・インスリン抵抗性は,脂肪細胞から遊離脂肪酸を放出し,TNF-α,IL-6,レプチンなどといった炎症性サイトカインを増加させる。これらの炎症性サイトカインは,肝の炎症を促進し,肝細胞の壊死・再生といった自律的な細胞増殖の結果,肝硬変・HCCを発症させる4)7)8)。さらに,高インスリン血症は,IGF-1発現9)10)とIRS-1活性化11)を背景に,細胞増殖促進とアポトーシス抑制を介してHCC発症に寄与する。また,高インスリン血症に伴う酸化ストレスは,癌抑制遺伝子であるp53の発現抑制12),転写因子であるnuclear factor-E2-related factor-1変異の誘導13),c-JUN amino-terminal kinase 1(JNK1)の活性化14)を介して,DNAを直接傷害し発癌を促進する。NASHによるHCC発症はインスリン抵抗性・高インスリン血症を背景にこれら複数の要因がからみあって生じている可能性がある(図1) 3)。

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