はじめに  糖尿病と癌は健康にともに大きな悪影響を及ぼす一般的な疾患であり,糖尿病患者は多くの癌において有意に高い発症リスクがあることが知られている。また内臓脂肪の蓄積を基盤とし,耐糖能異常,脂質異常,高血圧などの代謝異常を伴うメタボリックシンドロームや肥満は循環器疾患の発生を増加させるだけでなく逆流性食道炎や非アルコール性脂肪肝疾患などの良性疾患のみならず,諸種の癌のリスクを高めることも明らかにされている。  今のところ糖尿病や肥満と癌については多くのリスクファクターを共有していることが明らかになっているが,おのおのをつなぐ生物学的な関係はまだ解明しきれていない。本稿では,肥満やインスリン抵抗性の有無と癌との関係を考える上で重要であると考えられる知見について疫学研究を中心に触れてみることとする。