はじめに  2009年より始まりました基礎医学セミナーも,今回で5回を数えます。がんの基礎医学研究が臨床医学にどのように結びついているか,そしてがん患者のために活かされているのかについて紹介させていただいております。前回の第4回では,がん患者の生活の質(quality of life ; QOL)を下げるものは痛みに止まらず疲労感,倦怠感,食思不振,不眠,便秘,嘔気・嘔吐などたくさんの症状があること,そしてこれら一連の症状は進行がん患者の「悪液質」と呼ばれる症状で多くみられることをお伝えいたしました1)。このように,がん自体によりQOLを低下させる症状が身体全体に起こりますが,くわえて抗がん剤による痛み,しびれ,嘔気・嘔吐などの副作用にも苦しみます。個々の症状に対応し症状緩和を行うことは重要ですが,身体全体に働いて症状を緩和させる方法があればさらによい……しかしながら,そのような方法はなかなかありません。  日本には,病を個別にみるのでなく人を全体的に診てその人の症状を和らげる「漢方医学」「漢方薬」というものがあるのを皆さんもご存じのことと思います。近年,科学的なアプローチにより漢方薬の作用メカニズムの一端が解明されてきました。今回は,それらの研究の紹介を通して,がん患者のもつさまざまな症状の緩和に漢方薬が役立つ可能性があることをお話しいたします。