<< 一覧に戻る

がん疼痛緩和対策のアドバイスQ&A

Question 1 放射線療法,化学療法が誘発する口腔粘膜炎の痛みの治療はどのように行うのでしょうか。

武田文和下山直人

がん患者と対症療法 Vol.22 No.2, 59-63, 2011

Answer 1
 症状の重篤化を防ぐために,口腔内を清潔に保つことが重要です。殺菌消毒薬,局所麻酔薬は効果が長く続かないので,持続性の痛みをコントロールするためには鎮痛薬の全身投与が必要です。鎮痛薬の選択は,WHO三段階除痛ラダーに基づいて行うことが推奨されています。オピオイドも放射線療法に伴う口腔粘膜炎の治療に対する有効性が期待できます。

 NCCN(全米総合がんネットワーク)調査委員会がまとめた「粘膜炎の予防と治療に関するレポート」(2008年)では,治療期のがん患者にとって最も悩ましい症状は粘膜炎であると報告されています1)。
 がん治療が口腔粘膜炎を引き起こす機序は,大きく2つに分けられます2)。1つは細胞毒性をもつ化学療法または放射線療法が直接口腔粘膜を傷害して粘膜炎が発生するケース,もう1つは治療に伴う骨髄抑制に続発する二次感染が粘膜炎を引き起こすケースです。また,造血幹細胞移植後に移植片対宿主病を発症した場合も,それが粘膜炎の誘因となることがあります。
 化学療法が誘発する口腔粘膜炎は用量依存的かつ治療特異的です。口腔粘膜炎の発生頻度は使用する抗がん剤の種類によって異なりますが,ASCOの自己学習用プログラム(ASCO-SEP)には,「標準的な化学療法を受けている患者での口腔粘膜炎の発生率は約40%である」と記載されています2)。
 放射線療法に伴う口腔粘膜炎も,累積照射量に応じて発生リスクが上昇します。具体的な発生率については,放射線照射を受けた頭頸部がん患者の91%で口腔粘膜炎が発生し,grade 3以上の口腔粘膜炎の発生率は66%であったという報告があります3)。
 粘膜炎の発生は口腔粘膜上皮の細胞周期と連動し,化学療法が誘発する粘膜炎は通常投与開始から5~7日後に発症します。紅斑の形成,表皮落屑,潰瘍形成という過程を経て細胞は修復し,粘膜炎の症状も消失します。治療終了後数日で症状が消失することもありますが,2~3週間症状が持続することもあります2)。
 化学療法が誘発する口腔粘膜炎を予防するために,クライオセラピー(冷却療法)が用いられることがあります。化学療法開始5分前から30分間,氷片を口腔内に含ませるという方法です。口腔内の血管を局所的に収縮させて血流を減少させることで,抗がん剤の口腔粘膜への移行が減少すると考えられています4)。
 口腔粘膜炎の症状を重篤化させないためには,定期的な口内洗浄や毎食後のブラッシングを励行して口腔内を清潔に保つことが重要です。実際,口腔内の衛生状態を良好に保つことで口腔粘膜炎の症状を軽減できることが複数の臨床試験で確認されています5)‐7)。また,局所感染や噛む力が弱まることを防ぐために口腔内の乾燥を防ぐ,口腔内を傷つけないために食事の内容を工夫する,といった対策も必要です。
 口腔粘膜炎が発生した場合,症状管理の中心は疼痛管理です。痛みが軽いときは殺菌消毒薬や局所麻酔薬の投与で対応できるケースもありますが,殺菌消毒薬,局所麻酔薬は効果が長く続かないので,持続性の痛みをコントロールするためには鎮痛薬の全身投与が必要になります。前述のNCCN調査委員会のレポート,緩和ケアの成書では,WHO三段階除痛ラダーに基づいて鎮痛薬を使用することが推奨されています1)8)。ASCO-SEPには,「オピオイドを含めた鎮痛薬の全身投与は有効であるが,局所麻酔薬は効果を期待できない」と記載されています2)。
 また,放射線療法が誘発する粘膜炎の治療にオキシコドン徐放錠の早期投与が有用であったという報告も公表されています9)。痛みが比較的軽い段階からオキシコドン徐放錠による治療を開始することで,良好な疼痛コントロールが維持されるとともに粘膜炎が引き起こすもう1つの問題,摂食状況への影響も抑えられたことが報告されています(図1)。

 口腔粘膜炎の痛みの治療にオピオイドの投与が必要と判断されたときは,十分な副作用対策を行ったうえで除痛に必要な至適投与量を設定して下さい。


Question 2
 パクリタキセルを用いた化学療法が誘発する有痛性の末梢神経障害には,どのように対応すればよいのでしょうか。

Answer 2
 パクリタキセルによる末梢神経障害は痛みを伴うことがありますが,薬物療法の有効性については十分なエビデンスがありません。日常生活に支障をきたすgrade 3の神経障害が発現した場合は,減量,休薬,または治療法の変更が必要です。痛みが強い場合は,オピオイドも治療薬の選択肢として考慮します。オピオイドの有効性を検討した症例報告も公表されています。

 パクリタキセルは多くの化学療法のレジメンに組み込まれているキードラッグの1つですが,用量依存的に末梢神経障害の発現頻度が上昇するため,これが重要な用量規制因子となっています。パクリタキセルは細胞内のチューブリンに高い親和性をもっていて,末梢神経の軸索において微小管の脱重合を阻害します。その結果,軸索内の微小管濃度が低下し,軸索輸送が阻害されて末梢神経障害が誘発されます10)。つまり,抗腫瘍効果の発現機序でもある微小管への作用が末梢神経障害も引き起こすと考えられています。
 パクリタキセルによる末梢神経障害の一般的な初発症状は下肢のしびれ,ちくちくとした異常感覚,灼熱感で,上肢に症状が現れることもあります。自覚症状として痛みを伴うことも少なくありません。しびれ,知覚過敏,感覚異常などは特に四肢末端で強く発現し,glove and stocking型に分布します11)。また,重篤な場合は運動機能障害を伴います。通常,症状は可逆的ですが,高度の神経障害は後遺症として残ることもあります。アルブミン懸濁型パクリタキセルが誘発する末梢神経障害は,パクリタキセルよりも可逆性の場合が多いと報告されています12)。
 パクリタキセル誘発末梢神経障害に対する薬物療法の予防効果,治療効果を検討した臨床報告は,複数公表されています。特に報告が多いのはグルタミン酸で,一定の予防効果が認められていますが13),卵巣がん患者43名を対象にグルタミン酸の末梢神経障害予防効果を長期的に検討した無作為化比較試験(RCT)で有意な有効性が認められなかったという報告もあり14),評価は一定していません。そのほかビタミンE,ラフチジン,牛車腎気丸などの有効性に関する報告も公表されています15)‐17)。しかし,有効性のエビデンスを確立するためには臨床試験での検討を重ねる必要があります。
 オピオイドの有効性については,術前にパクリタキセルが投与された乳がん患者の有痛性末梢神経障害に対してオキシコドンが有効であったという複数の症例報告が公表されました18)。たとえば,48歳の左乳がん患者の場合,パクリタキセルを含む術前化学療法施行中にしびれを伴う手足の疼痛が発生し,牛車腎気丸,ビタミンEの投与は無効であったため治療薬としてオキシコドンが導入されました。まずオキシコドン速放散で効果を確認した後,オキシコドン徐放錠10mg/日の定時投与に切り替え,良好な鎮痛効果が得られています。また,痛みが緩和された時点でオキシコドンの投与は中止されています(図2)。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る