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がん病変の治療とともに歩む緩和ケア

補助療法としての鍼灸治療

Acupuncture on adjunct therapy

津嘉山洋古川聡子成島朋美前田尚子光岡裕一倉澤智子斎藤直子増山祥子山下仁

がん患者と対症療法 Vol.22 No.2, 45-51, 2011

Summary
 がん患者に対する鍼灸治療の適応範囲を推測するために,そのエビデンスとエキスパートの意見の両面から調査を行った。
 がん患者に対する鍼灸の臨床適応に関する英文献270件,和文献156件を対象に調査を行った。その結果,嘔気・嘔吐,疲労倦怠感および血管運動障害について鍼治療を推奨するとされたが,これら以外の症状に対するエビデンスは存在しないと結論づけられた。
 また,過去5年間の「腫瘍と鍼灸治療」に関する論文の著者83名にアンケートを郵送により送付し,回答を依頼し,46名(55.4%)から回答が得られた。
 その結果,がん患者に対する鍼灸治療で効果が得がたいもの(複数回答)として,疼痛,嘔気・嘔吐,メンタルケア,浮腫・麻痺や知覚障害,排便などが挙げられていた。また,鍼灸の適応となりうる症状(複数回答)として,疼痛,嘔気・嘔吐,食思不振,浮腫,化学療法副作用(嘔気・嘔吐以外),再発防止,不定愁訴,排尿障害,腹水などが挙げられていた。

The indications of acupuncture and moxibustion for cancer patients were investigated based on both evidence and expert opinions.
Two hundred and seventy papers in English and 156 in Japanese on clinical application of acupuncture and moxibustion for cancer patients were reviewed. As a result, it was concluded that there is no evidence for indications of acupuncture other than recommendations for nausea/vomiting, fatigue/malaise, and vasomotor disorder.
Questionnaires were sent by mail to 83 authors of papers on “tumors and acupuncture and/or moxibustion therapy” identified by database search using “Ichushi-Web” over the past 5 years, and 46 authors (55.4%) responded.
The symptoms of cancer patients they thought unlikely to respond to acupuncture or moxibustion therapy included pain, nausea/vomiting, mental problems, edema/paralysis, paresthesia, and dyschezia (multiple answers allowed).
The indications they thought possible for acupuncture or moxibustion included pain, nausea/vomiting, anorexia,indefinite complaint, appetite impaired, dysuria, and ascites(multiple answers allowed).

Key Words
■がん患者(cancer patients) ■鍼灸治療(acupuncture and moxibustion) ■evidence-based medicine ■適応(indication) ■厚生労働科学研究費補助金(Health and Labour Sciences Research Grants)

Sylvia Millecamの場合

 「BMJ」誌のNews 1)が,オランダの喜劇俳優Sylvia Millecamの死について伝えた。それによると,Millecamは乳がんの診断の後,その治療として乳房の切除術を勧められた。Millecamはこれを嫌い幾人かの補完代替医療(electro-acupuncture, faith healing, salt therapy, and psychic healing)の施術者を転々とし,その後に主治医のもとに再び現れたときには,主治医から手の打ちようがないとさじを投げられた。
 Newsでは個々の補完代替医療(complementary and alternative medicine ; CAM)の功罪についての言及はなかったが,electro-acupunctureの施術者は乳がんの治癒を保証し,その条件として西洋医学的治療の中断を挙げたと報じられた。また,今回の「事件」の背景として,1997年のCAMの施術者の開業に対する規制緩和が挙げられていた。Millecamの事例は,単にそれぞれのCAMの臨床評価が行われエビデンスの階層に当てはめても解決しない問題も含まれていることを示唆している。
 Rampesは,鍼の有害作用の1つとして「(西洋医学的)診断の遅延または誤診」「治療中の症状の悪化」をそれぞれ心筋梗塞で死亡,喘息の発作重積状態となった具体的症例とともに挙げている2)。無論これらの症例は鍼灸という医療技術のもつ問題というよりは,問題を生じる施術者(医師を含む)が存在するということであろう。Lewith 3)は,施術者のdiscipline確立のプロセスとそれがもたらす臨床と科学の距離として論じている。
 CAM施術者は科学と通常医学についての最低限の訓練を受けているが,彼らのdisciplineは通常医学から離れた特定の専門分野の言語と概念のうえに構築される。そして,特殊な治療を実践するうえで求められる知識・技術・経験の内的な統合(直観)の発達が促され,確固たる信念が診療を支える。これはevidence-based medicineの哲学と親和性がなく,成功しているCAM施術者にとっては現代医学との協調のためにその有効な信念に距離をとることには何の益もないということになる。
 しかし,極端なCAM施術者は現代医学と摩擦を生じることがあるが,「西洋医学的治療の中止」などの患者への重大な要求に何らかの科学的な根拠が存在するのか,過去の研究の結果を検索・収集・吟味した。

がん患者に対する鍼灸治療のエビデンス

1.目 的

 がん患者に対する鍼灸治療に関する客観的な臨床データを蓄積し,がん治療の補助療法としての鍼灸治療の適応症状,有効性,安全性などを明らかにし,がん患者に関わる医師,鍼灸師および医療従事者へエビデンスに基づいた情報を提供すること。

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