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がん病変の治療とともに歩む緩和ケア

頭頸部がん患者へのがん治療と緩和ケアの連携

Multidisciplinary therapy and palliative care in the treatment of head and neck cancer

沼田勉渋谷真理子

がん患者と対症療法 Vol.22 No.2, 6-12, 2011

Summary
 拡大切除および機能と形態の再建術により頭頸部がん治療成績には飛躍的向上が認められたが,患者の術後QOLや社会復帰には問題が残っている。1990年代後半になって,これまでの外科的手術中心のがん治療から臓器温存をめざす集学的がん治療が行われるようになった。この際に口腔や咽頭の強い粘膜炎に対応しつつ治療を継続する必要があり,そのことが頭頸部がん治療のチーム医療への移行を促進した。末期がん症例の看取りを中心とするケアのほかに,患者ががんから生還するために早期介入による計画的疼痛コントロールを指揮することが,頭頸部がんチーム医療における緩和ケアの重要な役割となりつつある。

Although extended resection and functional and morphological reconstruction have dramatically improved the outcome of head and neck cancer treatment, problems with patient post-operative QOL and social rehabilitation remain to be resolved. In the late 1990s, the therapeutic strategy for head and neck cancer shifted from surgical operation-centered therapy to multidisciplinary therapy focusing on preserving organs. Multidisciplinary therapy, however, requires management of severe oral and pharyngeal mucositis, prompting introduction of a team care system in head and neck cancer treatment. Besides providing end-of-life care to patients with terminal cancer, leading planned pain control via early intervention to help patients survive cancer is becoming an increasingly important role of palliative care in team care for head and neck cancer.

Key Words
■頭頸部がん(head and neck cancer) ■集学的治療(multidisciplinary therapy) ■動注化学療法(intra-arterial chemotherapy) ■粘膜炎(mucositis) ■緩和ケア(palliative care) 

はじめに

 頭頸部がんとは,首から上の脳と眼球を除く領域に発生するがんを総称するものである。副鼻腔,鼻腔,口腔,咽喉頭などの粘膜に発生する主として扁平上皮がんと,唾液腺,甲状腺などに発生する主として腺がんが主な対象である。1980年代までは,頭頸部がん治療は外科的手術を主体とするものであった。1990年代になり,動注化学療法,放射線療法との同時併用化学療法などの導入が契機となって頭頸部がんの集学的治療の重要性が強調されるようになった。そして集学的治療によって臓器と機能の温存が可能であることが報告され,集学的治療が頭頸部がん治療の中心的なものとなった1)2)。外科的治療から集学的治療への流れは,頭頸部がんの治療体制も変化させている。すなわち,これまでの頭頸部外科医師,放射線科医師が主導するがん治療から,医師だけではなく多彩な医療従事者が協働して治療を遂行するチーム医療への移行が顕著になったのである。そのなかに緩和ケアチームも当然含まれ,それまで比較的希薄であった頭頸部がん治療と緩和ケアの関係も緊密なものとなってきた。
 一方,2000年代に入り,わが国の頭頸部がん症例においては高齢化が顕著になってきた。年齢,合併症を考慮した治療が求められるのは当然であるが,日本社会のゆがみを反映するように独居老人,高齢者夫婦のみの家庭,施設に入居中の老人などの頭頸部がん症例は増加し,家族背景,認知症の進行度などまで十分に把握しなければ適切な治療の選択すら不可能になった。また,がん治療情報はマスコミで頻繁に取り上げられて瞬く間に広がり,患者および家族からの要求は高度かつ専門的になっている。セカンドオピニオンの希望も増えつづけている。この面からも,頭頸部がん治療は医師個人や1つの専門科において行うものからその病院全体の機能を動員したチーム医療へと必然的に向かい,各種サポートシステムが稼働しなければ時代の求めている頭頸部がん診療は提供できなくなった。
 本稿においては,上記のようなチーム医療の一環としての頭頸部がん治療と緩和ケアの連携について,外科サイドを預かる者の観点より述べたいと思う。当院における両者の関係は一般的でも先進的でもないのであるが,それぞれの施設において当院の現状と比較していただくことで何かの役に立つのであれば幸いである。

頭頸部がん治療の変遷と緩和ケア

 頭頸部がんは顔面頸部といった最も目立つ部位に発生し,その外科的手術は容貌や機能に重大な障害を残してしまう。単純な舌亜全摘術,喉頭・下咽頭切除術でも組織の余裕がないため縫縮することができず,最終的には唾液による感染から頸動脈破裂などで死に至る。また,外科的切除の行える範囲には限界があったため,1970年代までの頭頸部がんの予後は,がん専門施設においても5年生存率が30~40%程度であり,進行した頭頸部がんはほぼ不治の病に等しかった。この時代においては,医師と患者,および担当科の看護師と患者の関係が治療する側,される側のすべてであった。進行例においては根治を望むことはできず,死に至る経過をいかにそれと気づかれずに過ごしてもらうかが重要であった。当然ながら本人へのがんの病名告知はほとんど行われず,インフォームドコンセントやセカンドオピニオンは皆無であった。また,緩和ケアと看取りとはほぼ同義語と考えられた。
 頭頸部がん治療に大きな変化が起きたのは,1970年代後半から1980年代にかけてである。それは,切除後の欠損の有茎皮弁による再建法(DP皮弁,大胸筋皮弁,広背筋皮弁など)の開発と普及による。のちには,現在主流である血管吻合を用いた遊離皮弁による再建法(前腕皮弁,腹直筋皮弁など)につながる。これによって,頭頸部がん治療はようやくその進展範囲に応じて必要なだけ切除することが可能な時代に至ったのである(図1,2)。

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