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基礎医学セミナー

第4回 がん患者の症状緩和のために―がん悪液質の予防,症状改善をめざす基礎医学研究

上園保仁

がん患者と対症療法 Vol.22 No.1, 58-63, 2011

はじめに
 2009年より始まった基礎医学セミナーでは,基礎医学研究が臨床医学にどのように結びついているか,そしてがん患者のために活かされているかについて紹介させていただいています。第1回セミナーでは,「がん患者の生活の質(quality of life;QOL)の向上をめざして,基礎医学研究者も積極的にがんの痛みなどの基礎研究に携わり,そこで明らかとなった知見が臨床の現場で活かされるようになれば。その具体的な研究を今後のセミナーでご紹介いたします」と結びました1)。そのなかで,がん患者のQOLを下げるものは痛みに止まらず疲労感,倦怠感,食思不振,不眠,便秘,嘔気嘔吐などたくさんの症状があることをお伝えしました。倦怠感,衰弱感,食思不振といった一連の症状は,進行がん患者の「悪液質」と呼ばれる症状で多くみられます。
 今回は,進行がん患者の約50~60%にみられる「がん悪液質」について,がん悪液質の病態の説明,そしてがん悪液質の予防ならびにその症状改善のためにどのような基礎‐臨床医学の橋渡し研究が行われているのかについてご紹介いたします。

がん悪液質とは

 悪液質は,食思不振,体重減少,特に筋肉量の減少を主症状として,疲労感,倦怠感を伴い,また血中炎症性サイトカインレベルなどに異常がみられる消耗性の疾患です。体重減少に関しては「飢餓」の状態と変わらないのですが,飢餓では基礎代謝,糖代謝が低下しているのに対して悪液質ではむしろ基礎代謝や糖代謝が亢進すること,また飢餓では脂肪組織の減少が主にみられるのに対し,悪液質では筋肉量の低下が著明であることなど,悪液質は単なる食思不振や栄養不足のために体重減少を伴う症状ではないことが知られています。この悪液質は,がん患者以外に慢性呼吸器疾患や慢性心臓病,慢性腎臓病の患者などでもみられます。がん悪液質は終末期のがん患者では50~60%に認められますが,近年明らかになってきたのは,がん悪液質患者は明らかに予後が悪く,さらにがん悪液質自体が原因で死亡する患者ががん死亡の20%を占めるということです。すべてのがん腫でがん悪液質の報告がみられますが,特に膵臓がん,胃がん患者にがん悪液質の傾向が高く(両がん患者とも約80%),ほかに食道がん,頭頸部がん,大腸がん患者もがん悪液質を伴うことが多いことが報告されています2)。
 がん悪液質の研究報告を調べますと,がん悪液質を予防し症状の改善を行うことは,がん患者のQOLを向上させるのみならず生命予後を長くすることが示されています。つまり,がん悪液質にならない,あるいは発症時期を遅らせる,発症してもできるだけ症状を軽くするという治療は,患者のために有効であるということです。ところが,がん悪液質の予防,治療には決定的なものがないのが現状です。
 そもそもがん悪液質の成因,素因といったものは,がん細胞自体が出す何らかのファクターによるもの,がん細胞からのファクターに反応して起こる宿主の免疫,代謝異常などの二次性反応によるものなど,さまざまな原因が報告されてはいるものの,その本質はほとんどわかっていません。したがって,原因がはっきりしないのでそれに対する予防法,治療法もわからないということです。

がん悪液質の診断基準

 2008年に悪液質の診断基準が示されました。それによると,12ヵ月以内に5%以上体重が減少し,加えて筋力低下,疲労などの症状の5つの基準のうち3つ以上を満たすこと,と定義されています(図1) 3)。

 また,ごく最近新たな分類も提唱されています。それによると,がん悪液質が前悪液質(pre-cachexia),悪液質(cachexia),治療不応性悪液質(refractory cachexia)の3種に分類されています4)。がん患者の悪液質は早期に対応すればするほどその改善が顕著であることを考えると,がん悪液質の早期診断,そして早期介入はとても重要です。前悪液質として定義される基準が導入されると着実な早期診断ができると思われるので,がん患者にとっても介入を行う医療サイドとしても,この基準の導入は望まれるところです。また,がん悪液質への薬効を検討する臨床治験においても,どのがん患者に対してどのタイミングでどのような薬剤の治験を行うかという詳細な基準を設定できることにもなり,正確な薬効評価が生まれるものと期待されます。

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