はじめに  2009年より始まった基礎医学セミナーでは,基礎医学研究が臨床医学にどのように結びついているか,そしてがん患者のために活かされているかについて紹介させていただいています。第1回セミナーでは,「がん患者の生活の質(quality of life;QOL)の向上をめざして,基礎医学研究者も積極的にがんの痛みなどの基礎研究に携わり,そこで明らかとなった知見が臨床の現場で活かされるようになれば。その具体的な研究を今後のセミナーでご紹介いたします」と結びました1)。そのなかで,がん患者のQOLを下げるものは痛みに止まらず疲労感,倦怠感,食思不振,不眠,便秘,嘔気嘔吐などたくさんの症状があることをお伝えしました。倦怠感,衰弱感,食思不振といった一連の症状は,進行がん患者の「悪液質」と呼ばれる症状で多くみられます。  今回は,進行がん患者の約50~60%にみられる「がん悪液質」について,がん悪液質の病態の説明,そしてがん悪液質の予防ならびにその症状改善のためにどのような基礎‐臨床医学の橋渡し研究が行われているのかについてご紹介いたします。