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せん妄への対策とケア

せん妄と安全対策

Safety management for patients with delirium

後藤朝香髙橋美賀子

がん患者と対症療法 Vol.22 No.1, 44-51, 2011

Summary
 緩和ケアを受ける患者に高頻度に起こるせん妄は,転倒・転落をはじめさまざまなインシデントにつながることが多い。患者の身体抑制をなるべく行わない緩和ケアにおいて,患者の尊厳と安全対策のジレンマに日々頭を悩ませている。
 当病棟では,せん妄スクリーニングツール(DST)導入の前後で転倒する患者の減少がみられたことから,せん妄症状を早期に発見し対策を講じることにより,せん妄による危険行為は減少しているといえる。しかし,終末期せん妄など予防が難しい場合も多く,それには医療チームでの取り組みと家族の理解・協力が欠かせない。家族や患者との対話を重ねながら,患者にとって最期の時間を安全かつ有意義に過ごすことができる療養環境を提供していきたいと願う。

Delirium, which occurs frequently in patients receiving palliative care, often leads to various incidents, including falls. The dilemma between the dignity of patients and safety measures is a major challenge for palliative care, in which suppression of patient behavior should be avoided as much as possible.
The number of patient falls has decreased after the introduction of Delirium Screening Tool (DST), and it is now possible to prevent dangerous behaviors due to delirium by detecting delirium symptoms early and taking action. However, prevention is difficult in some cases, including terminal delirium. In such cases, efforts of medical teams as well as understanding and cooperation of families are essential. It is desired to provide a care environment in which patients can spend their last hours safely and meaningfully by continuing talks with patients and their families.

Key Words
■せん妄(delirium) ■安全管理(safety management) ■尊厳(dignity) ■DST ■早期発見(early detection) ■家族の理解と協力(understanding and cooperation of family member)

はじめに

 せん妄は,軽度~中等度の意識混濁により幻覚,妄想,興奮などのさまざまな精神症状を伴う意識障害であり,身体疾患に罹患している患者や特に終末期患者において高頻度にみられる一般的な疾患である。
 筆者の所属する緩和ケア病棟の対象となる患者は,予後の限られた終末期のがん患者である。医療者は,患者の痛みや苦痛の症状コントロールや生活の援助を行っている。緩和ケアにおいて提供する医療の特徴として,患者のQOLを最大限に尊重し,患者が何を望み,どのようにしたらその人らしく過ごせるかを一緒に考え,スタッフの力を集結しその思いを可能な限り叶えるところにある。そのため,一般病棟で行うような安全管理のための身体抑制などは基本的に行わない。しかし,せん妄症状を呈した患者は時に抑止がきかず,ベッドからの転倒や点滴ライン,チューブ類の自己抜去などのインシデントにつながることが多い。
 本稿では,せん妄の早期発見と対策によりせん妄の重症化を防ぎ,インシデントに発展しないようにするための当院での取り組みについて紹介する。

安全管理と患者の尊厳

 終末期のがん患者の多くは,病気の進行に伴うものや感染症,貧血,薬剤使用などにより最期の1週間では30~80%の患者がせん妄症状を発症するともいわれている1)。終末期に向かって日々進行していく患者にとって筋力低下,ADLの低下は否めない事実であり,それは死に向かって生き続ける人間の宿命であり,時に転倒がその死に向かう過程を受容させるきっかけとなることもある。特に問題となるのが,自分の身体機能が徐々に失われていく時期である。患者は自分が今までできたことができなくなったり衰える姿をみて,気落ちし嘆きながらその事実を徐々に受け入れていく。しかし,筋力低下や下肢の浮腫などによってよりADLの低下した状態で今までどおりの身体機能に挑戦しようとすると,転倒・転落などのリスクにつながる2)。転倒により骨折などを生じてしまった場合,本来あるべき残された大切な時間を別の治療にあてなければならず,今まで以上にADLが低下し寝たきりになるケースもある。残念ながらそうなってしまった場合,患者自身はもちろん残された家族にとってもまた非常に悲しい傷となって残ってしまう。安全管理は時に拘束感を感じさせる場合もあり,残された時間が限られた患者にとってその人らしく穏やかな時間を過ごしてもらうことが最大の目標であるわれわれは,安全管理と患者の尊厳を守ることのジレンマに日々悩んでいる。

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