特集 移植医療の最前線
肺移植
Pharma Medica Vol.40 No.3, 13-18, 2023
日本の肺移植は1998年に始まり、2022年末までに累計1,036例が行われてきた。改正臓器移植法の施行後、脳死ドナーの提供数は増加傾向ではあるが、依然としてドナー不足は深刻で肺移植待機患者の平均待機期間は2年半、待機中の死亡率は40%である。
臓器提供が少ない現状のなか、日本では肺移植において世界とは異なる独自の取り組みが行われてきた。生体肺移植、ドナー肺利用率の向上、片肺移植がその特徴であり海外と比較しても遜色のない肺移植後生存率である。
しかしこのような取り組みだけではドナープールのわずかな増加にしか貢献せず、近年増加する肺移植登録患者を救うことができない。
より現実的に有望な新しいドナーソースとして、心臓死後のドナー提供が考えられる。心停止ドナー肺移植はすでに一部の欧米諸国で盛んに行われ、各国のドナー数の増加に寄与している。国際的なデータによれば、心停止ドナー肺移植の生存率は脳死肺ドナーと同等である。
また他臓器を含めた心停止ドナー移植の導入には、腹部臓器常温局所灌流装置などの技術が寄与し、これによって臓器利用率が向上する可能性がある。今後、日本における心停止ドナー移植の導入には倫理的な課題は山積みであり、慎重な検討が必要である。
「KEY WORDS」脳死肺移植,心停止ドナー肺移植,A-NRP,TA-NRP
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。