特集 乾癬を見直す~臨床薬理学の観点から~
乾癬のバイオマーカー
Pharma Medica Vol.39 No.10, 39-42, 2021
尋常性乾癬の成因として,Th17細胞あるいは自然リンパ球(innate lymphoid cell:ILC)3が産生するインターロイキン(IL)-17と,Th17への分化に必須なIL-23p19が鍵となっていることが判明し,治療標的となるサイトカインやシグナルも解明されつつあり,近年治療方法は劇的に進化した。また,尋常性乾癬では心血管疾患,脳血管疾患の合併が多く,平均より寿命が短いという報告も蓄積され,皮膚病変のみにとどまらず全身の炎症性疾患の1つであると認識されつつある1)2)。
さて,バイオマーカーとは,ある疾患の有無や活動性を示す生理学的指標のことで,生物指標化合物ともいう。バイオマーカーとして使用されるものは,組織や血液,尿などの体液に含まれるタンパク質や遺伝子などの生体物質のデータであり,疾患特異的に発現する項目が望ましいが,実際には疾患活動性の変化や治療に対する反応に相関し,変動することが多い。よって,バイオマーカーの値を測定することで病気の進行度や治療効果を検討できる。
アトピー性皮膚炎においては,バイオマーカーとして種々の実用化されている項目があるが,乾癬の分野ではいまだ研究段階である項目が多い3)。病変部皮膚での炎症性サイトカインのprofileや個々のサイトカイン濃度,また発症誘因となる患者末梢血単核球から産生される炎症性サイトカインの種類や濃度が,厳密な薬剤選択における真のバイオマーカーであろう。ただし,個々のサイトカイン濃度の測定は実臨床では困難であるため,現実的には後述する項目がバイオマーカーとして捉えられている。
乾癬では,皮膚に浸潤する炎症性細胞と皮膚の相互作用にて局面が形成されている。Type3疾患として理解されて久しいが,局面のなかの炎症細胞はType3細胞ばかりではなく,Type1細胞や非特異的免疫担当細胞,そして活動性が高まっている表皮角化細胞の混在である。よって,検出される項目は多項目の混在であり,炎症を反映する非特異的バイオマーカーとなり得る。医学は進化し,どのようなシグナルが動いているか,などのオミックス情報が得られるようになった。トランスクリプトミクス,エピゲノミクス,メタボロミクス解析では非常に多くの有意な変化が抽出されている4)。また,血中,組織中の酸化ストレスマーカーの増減も調べられている5)。よって,近い将来,有用なバイオマーカーが発見される可能性も秘めている。現在のところ,乾癬に関しては中島の既報がよくまとまった内容であり6),本稿では臨床的にも意義があると考えられる項目を追加解説する。
「KEY WORDS」尋常性乾癬,バイオマーカー,Type3サイトカイン,アトピー性皮膚炎,角化細胞
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。