特集 腸内細菌と全身疾患
Ⅰ腸内細菌と消化器疾患
腸内細菌と腸管運動
Pharma Medica Vol.38 No.12, 31-35, 2020
緻密に制御された腸管運動は,消化・吸収・排泄を担っており,ヒトの生命維持に不可欠である。近年,無数に存在する腸内細菌が,糖質,脂質そしてビタミンなどの栄養素の吸収のみならず,短鎖脂肪酸および胆汁酸などの代謝物を介して全身の恒常性維持に重要な役割を果たすことが明らかとなった。腸管運動が腸内細菌の数量,局在および多様性に影響を及ぼすことは疑う余地はないが1),大変興味深いことに,その反対に腸内細菌が宿主の腸管運動を制御することが最近の研究で解明されつつある。腸内細菌叢の変化が,腸管運動機能異常を病態とする慢性便秘症,過敏性腸症候群,さらには慢性特発性偽性腸閉塞症の原因となる可能性を示すものであり,これらの疾患の根本的治療法を開発するうえで,腸内細菌と腸管運動の関連性が重要視されている。本稿では,腸内細菌が腸管神経および腸管平滑筋に及ぼす作用の観点から,腸内細菌が腸管運動を調節するメカニズムについて概説する。
「KEY WORDS」腸内細菌,腸管運動,腸管神経,腸管平滑筋
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