うつ病,特に高齢者のうつ病患者を長く診療していると,うつ病が認知症に移行しやすいことを実感する精神科臨床医は少なくないであろう。うつ病と認知症の関係については以前より,うつ病が認知症の前駆状態か,またはうつ病が認知症発症の狭義の危険因子となるかは,議論がなされていた。臨床的視点から振り返ると,抑うつ状態が遷延するなかで,次第に認知症としての病態が鮮明になり,当初の抑うつ状態は認知症の前駆状態であったという経験も多い。一方,統合失調症はもちろん,うつ病より若年期に発症する双極性障害でも,再発を繰り返すと人格水準や社会機能が低下する場合があり,病相が認知機能の低下に関与していると感じることも少なくない。うつ病と認知症の関連性に関する疫学的調査や生物学的研究から,最近は「うつ病の一部は認知症の前駆状態であり,またうつ病は認知症の発症や進行を促進させる危険因子でもある」という考え方が一般的になりつつある1)。本稿ではうつ病診療医の立場から,うつ病が認知症,特にアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)の発症や認知症の病理を進行させる危険因子になるという考えについて解説する。
「KEY WORDS」depression,dementia,Alzheimer,risk factor