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特集 血友病診療の新たな展開

血友病に関する凝固検査と遺伝子診断

篠澤圭子

Pharma Medica Vol.37 No.5, 19-23, 2019

血友病の診断・重症度の判定・治療効果の評価は,血液凝固検査を用いて得られた凝固因子活性に基づいて行われる。
血友病は関節内や筋肉内などの深部出血を特徴とするが,ほとんど出血がない軽症患者もいる。血液凝固機構のスクリーニング検査である活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time;APTT)は,組成や濃度の違ったAPTT試薬の種類が多く,用いるAPTT試薬の違いが要因となり,測定値のばらつきが生じる1)。このことは,スクリーニングで出血症状がない軽症患者を見落とす懸念を生じさせる。
内因系血液凝固因子である第Ⅷ因子(FⅧ)または第Ⅸ因子(FⅨ)活性は,日本ではAPTTをベースとした凝固一段法を用いて測定している。多種類のAPTT試薬と,その他の試薬や自動測定機器の組み合わせにより,凝固因子活性値に,ばらつきがみられる。さらに,凝固一段法で測定した凝固因子活性と患者の出血症状が一致しない,乖離がみられるケースがある。
凝固因子製剤による補充療法における治療効果は,凝固因子活性に基づいて治療目標を定める。近年,多くの半減期延長型(extended half life;EHL)凝固因子製剤が登場し,長時間にわたり止血効果を発揮しているが,EHL製剤は本来の凝固因子にさまざまな分子修飾が施されているため,凝固一段法で用いるAPTT試薬の違いや,測定に利用した凝固一段法と合成基質法の違いが,凝固因子活性に影響を及ぼすことが報告されている2)3)
一方,血友病の遺伝子診断は,遺伝子解析を用いて直接的に病因となる遺伝子変異を同定することから,確実な確定診断である。患者の遺伝情報は,患者本人に有用であるばかりではなく,患者の家族に共有されて保因者診断に利用され,臨床的有用性が高い4)。しかし,現時点では,血友病の遺伝子診断は,大学の研究での遺伝子解析として行われているものであり,遺伝子医療として保険診療で実施しているものではない。
本稿では①血友病の血液凝固検査,②凝固因子製剤と凝固因子活性,③遺伝子解析による血友病の遺伝子診断について,その現状と課題を解説する。
「KEY WORDS」凝固因子活性,凝固一段法,発色合成基質法,半減期延長型凝固因子製剤,遺伝子診断

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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