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特集 心不全診療の現状と展望

時間経過と病態を踏まえた急性心不全治療アルゴリズム

末永祐哉

Pharma Medica Vol.36 No.12, 25-29, 2018

2017年度のJROAD(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases)からの報告によると,わが国では現在年間約10万人が急性心不全の診断で入院している。この数字は年間7万人である急性心筋梗塞よりも多く,慢性心不全の診断における入院と合わせると20万人が心不全の診断で入院していることが明らかとなっている。
しかしながら,この20年で急性心筋梗塞の治療が大きく進歩し,少なくとも短期予後に関しては改善していることに比べると,まだまだ心不全診療において解明されていない点は多い。その大きな理由の1つは「心不全」という病態が多種多様な病態を含んでいることによることに間違いなく,特に急性心不全においてこのheterogeneityはここ10年間に多施設ランダム化比較試験で検討されたさまざまな予後改善を目指した介入が有効であると示されなかった大きな理由の1つだろう。
さて,それではこの急性心不全における“多様性”はどこから来るのかを考えてみると,もちろんそれは2つ,3つの要素ではない。基礎疾患,特にしばしば未診断,未治療となっている心筋症や,年齢,急性増悪に至るプロセス,腎機能,肥満(筋肉の分布)など,数えきれないほどの因子があげられる。かつこれらの因子は,お互いに掛け算のように絡み合い,その結果として急性心不全の多様性を形作っている。ところが現在の急性心不全に対する研究の進捗は,これら1つ1つの要素に限ってもまだまだ十分とはいえないという状況である。
急性心不全を治療した経験があるものであれば必ず気づいており,これまでに概念的にはしばしば述べられることの1つに,急性心不全のphenotypeがある。その主たる主張は,急性心不全は,大きく分けていわゆる“vascular type”と呼ばれる短時間に急性肺水腫を発症し,強い呼吸苦を生じる割には体液貯留傾向をそれほど示さずに増悪するタイプと,ある一定の時間(多くはdays)をかけて体液貯留傾向を示す“fluid accumulation type”とも呼ばれるタイプがある,ということである。この急性心不全のphenotypingはクリニカルシナリオやNohria-Stevenson分類の元となっている考え方ではあるものの,実はこれまでにその有用性に関しては検討されていないといわざるを得ない。
もう1つ,これまで大きな注意が払われてこなかったものとしては「時間軸」がある。時間軸と一口にいっても,病態における時間軸,診断までの時間軸,治療までの時間軸など,さまざまな時間軸があるが,これまでの急性心不全の研究はこの時間軸に全くといっていいほど焦点を当ててこなかった。われわれはこのことから2014年から2016年にかけてREALITYAHF(Registry Focused on Very Early Presentation and Treatment in Emergency Department of Acute Heart Failure)という,特にこの時間軸に注目した前向き多施設レジストリーを行った(UMIN000014105)。
ここでは,「時間経過」,「症状」,「診断治療」という3つのファクターに注目して急性心不全について考察してみたい。
「KEY WORDS」BNP,利尿薬,早期治療,症状

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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