<< 一覧に戻る

特集 肥満症とメタボリックシンドローム:予防医学と治療医学の観点から

アディポネクチンの新たな展開

藤島裕也下村伊一郎

Pharma Medica Vol.35 No.11, 33-38, 2017

わが国では1980年代より欧米型の生活スタイルへの変化を背景に,肥満人口は増加の一途を辿っている。肥満,特に内臓脂肪型肥満は,冠動脈疾患や脳梗塞発症リスクの上昇や,死亡率増加と関わっていることが近年明らかとなってきた。さらに内臓脂肪蓄積を基盤とし,耐糖能異常,高トリグリセライド(TG)血症,低HDL-コレステロール血症,血圧上昇を伴うメタボリックシンドロームは,粥状動脈硬化疾患を引き起こす病態として認識されている。近年の分子生物学的研究により脂肪組織は,「アディポサイトカイン」とよばれるさまざまな生理活性物質を産生・分泌する内分泌臓器であることが明らかとなってきた。メタボリックシンドロームの病態では,脂肪細胞機能異常を背景に,TNF-α(tumor necrosis factor-α)やIL-6(interleukin-6),PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)といった脂肪細胞由来の炎症性,血栓性生理活性物質の産生が増加する。その一方で,脂肪細胞から特異的に分泌されるアディポネクチンは,抗動脈硬化作用をはじめ,インスリン感受性増強作用や抗炎症作用など,多彩な臓器保護作用を有しているが,内臓脂肪蓄積に伴い血中濃度が低下する。特に低アディポネクチン血症は2型糖尿病1) や冠動脈疾患2) の危険因子となりうることが示されており,内臓脂肪蓄積に伴うアディポサイトカインのバランスの破綻が,動脈硬化性疾患の進展に深く関わっていると考えられる。
「KEY WORDS」アディポネクチン/Tカドヘリン/動脈硬化症/メタボリックシンドローム

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る