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野巫医のたわごと

(184)杓子と匙と柄杓

前田貞亮

Pharma Medica Vol.33 No.9, 90-91, 2015

「役所なんて杓子定規なんだから(杓子定規―形式やしきたりにとらわれて応用や融通の利かないこと)。」よく聞く庶民の言葉である。「いろいろ考え,八方手を尽くしたが,方法も見つからず,どうにもならない。匙を投げるしかない。」これもよく出てくる言葉である。ことに後者にある「匙」は医療職として,とくに医師,薬剤師にとっては治療の中心になる大切な道具の1つである。元来,匙は平安時代に食事用として大陸(支那大陸)から入ってきたもので,上流社会ではこの匙を用いて,汁や飯を掬って食べるのが支那(当時は先進国)大陸の人々の風習から流行したようである。当時は匙とは呼ばれず,汁や飯の入る部分が皿の様に中央が凹んでおり,貝殻に似た形であり,杓子を含めて「かい」と呼ばれていた。食器具の「かい」は大型のものは「杓子」,小型のものは「匙」と呼ばれた。恐らく木製や焼き物製の前に,最初は木や竹などの先を裂いて貝殻を挟んで作ったものであったからであろうか,又この呼び名は舟を漕ぐ「櫂(かい)」と似ているからではないであろうか。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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