<< 一覧に戻る

NEXT DOOR 注意欠如・多動性障害(ADHD)理解のために

No.1 注意欠如・多動性障害(ADHD)診療の現状と課題

田中康雄

Pharma Medica Vol.32 No.12, 108-111, 2014

 注意欠如・多動性障害(ADHD)とは,不注意,多動性,衝動性の3症状を柱とし,これらの症状を年齢不相応に強く示す神経発達障害群の1つである。しかし,これらの症状は多かれ少なかれ,多くの子ども達に認められることもあり,その診断は決して容易ではない。また,ADHDには様々な治療手技が提案されているが,ADHDは生来的な脳機能障害であるため,治療目標はADHDの3主症状が完全になくなることに置くのではなく,ADHD症状を自己の人格特性として折り合えるようになることに置くべきとされる1)。
 近年,ADHDという障害については一般にも広く認知されるようになったが,適切な支援のためには患者とその保護者のみならず,教育機関や非専門医も含め,子どもを取り巻く多くの人々の正しい理解が必要であり,周囲のサポートが必要不可欠である。そこで,非常に複雑で多岐にわたるADHD診療の現状と課題について,田中康雄先生にお話を伺った。

ADHDの特性と診療のポイント

■ADHDのある子どもの適切な支援のためには早期発見・早期介入が重要といわれていますが,気付くきっかけとなるような特性とはどのようなものでしょうか。
 ADHDの診断には現在はDSM-Ⅳ-TR 2)またはDSM-5 3)を参照し,不注意,多動性,衝動性の症状が一定の基準を満たした場合に判断されます。しかし,これらの症状は一般の子ども達にもよく見られる行動パターンで,ADHDの場合は年齢不相応に強く現れるということになりますが,実はその判断は非常に難しいものです。気付くきっかけとしては保護者の中で「育てにくさ」といった形で感じられることになりますが,子どもに問題があるのではないかと思う前に,育て方に問題があるのではないかと周囲に思われ,親が傷つく場合が多くみられます。この時期に目立つ症状としては,言うことを聞かずに走り回る,手を振りほどいていなくなってしまう,といった衝動性や多動性になります。保育所や幼稚園といった集団生活ではこのような症状が顕在化するため,周囲から様々な指摘を受ける,子どもの言動によるトラブルを目の当たりにする,といったことが気付きのきっかけとなることがあります。
 また,最近は発達障害に対する周囲の認識が進んでいることもあり,保育士さんのアドバイスや3歳児健診で指摘をされて受診される方も増えています。その一方で,ADHDを含む発達障害についての周囲の理解が過剰に進んでいる部分もあるため,少し活発であるというだけかもしれない子どもまで発達障害なのではないかと保護者が過剰に追い詰められてしまう場合もあり,知識や理解のバランスが難しい点ではあります。
 子どもが日々成長していく中で,一場面だけを切り取って早々にADHDであると判断し,様々な選択を迫るのではなく,ADHDという情報を知っていることで説明のつく部分と本人の思いの両方をうまく理解し,その理解を周囲と共有し,子どもの変化を見ながら慎重に対応していくことが大切だと思います。

■診断された子どものフォローアップにあたり,診療の上で気を付けていらっしゃる点はありますか。
 ADHDの場合,子ども自身が不調を感じて診察に来るわけではなく,保護者が問題を感じて受診することになります。つまり,子どもの問題でありながら,今,問題とするのは"保護者の心のありよう"なのです。したがって,まずは保護者が何に傷つき,困っているのかを整理することになります。支援全般に言えることですが,日々の生活の中で,保護者が子どもをどのように理解し,周囲とどのように関わっていきたいか,という点を考えていくことが治療や支援の方針を決めていく上で大切です。

医療機関および保育・教育機関における連携

■ プライマリケアにおけるADHDとの関わり方についてはどのように考えていらっしゃいますか。
 発達障害の可能性がある子どもをたくさん診る機会のある,専門医と呼ばれる人達にとっても,ADHDの診断というのは非常に戸惑うことが多く,かなりのステップを必要とします。環境要因によって現れる症状である場合や,広汎性発達障害との鑑別が困難な場合もあり,診断には苦労しているのが現状です。私自身,その診断に悩むことも多く,かかりつけ医である,いわゆる一般小児科の先生方もADHDの診断には悩まれるのではないでしょうか。
 小児科の先生方の中にも精神科領域に含まれる発達障害について知らなければうまくいかないということを承知していらっしゃる方も少なくありませんので,中には上手に診察にあたる場合もあるかと思います。とはいえ,子どもが示す言動というのは本当に多岐にわたります。小児科の先生はたくさんの子どもを診ていく中で,ご自分の中でプロトタイプをつくり,ちょっと気にかけた方がよいのではないか,ここは保育士や保健師に相談したほうがよいのではないか,この場合は専門医にお願いした方がよいのでは,といった見極めを担っていただければと思います。

■ADHDの治療にあたっては,保育・教育機関との連携も大事になってくると思いますが,現状についてはいかがでしょうか。
 発達障害に関しては,保育所・幼稚園の先生方の研修会や自己研さんもレベルアップしていますし,特に,特別支援教育が学校教育法に位置付けられてからは小学校の先生の理解度は高いと思います。ADHDの症状自体は乳幼児期から顕著に現れますので,保育所・幼稚園や小学校の先生にサポートしていただくことは,子どもの症状改善に向けては非常に重要なことです。ただし,どのように連携していくべきか,という点に関しては診療のポイントと重複しますが,保護者が子どもをどのように理解し,どのようなサポートを関係機関に期待しているか,どのように周りに分かってもらいたいか,という部分によるところが大きいのではないでしょうか。
 一方で,関係機関としてはADHDのある子どもを集団の中でどのように育てていけばよいか,学び合える環境をどのように作っていけばよいか,という部分でかなり苦労します。実際には機関ごとの方針や先生の人数,カリキュラムなどの問題があり,関わり方のバランスが非常に難しく,巡回相談員や特別支援学校の先生などに相談しながらサポートをしていきます。その中で,場合によっては子どもが医療機関にかかっていれば,医療との連携も取りながら対応していくことになります(図1)4)。

ただし,医師は「個人」を診ており,学校教育は「集団」としての対応が必要となりますので,考え方や対応の仕方については調整が必要です。文部科学省によって「小・中学校におけるLD(学習障害),ADHD,高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」が作成されたことにより,医療と教育機関の風通しはよくなったと感じています。以前は,教育現場に医師が出向いて状況を確認することや,学校の先生に病院へ来ていただいてご相談することは難しかったのですが,互いの疎通性がよくなったことで,医療側が教育現場の苦労を知ることができますし,教育現場の先生方は医療的情報をいかに活用するのか,といった情報を共有できるようになりました。このように,医療と教育機関の間でADHDの子どもに関わる上での対応方法や実際の状況をうまく共有していくことが,連携をしていく上での鍵になると思います。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る