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NEXT DOOR 脂質管理の新しい潮流

No.2 脂質異常症治療の現状と今後の展望

池脇克則

Pharma Medica Vol.32 No.10, 78-80, 2014

PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)阻害薬などの新しい作用機序を有する脂質異常症治療薬が開発中であり,スタチンやエゼチミブなどによる従来療法ではコントロールが困難であった脂質異常症患者にも,新たな展望が見いだされようとしている。そこで今回,脂質代謝研究のエキスパートである池脇克則先生に,本邦の脂質管理の現状と課題,そして今後の展望について伺った。

本邦の脂質管理状況

◆本邦の脂質管理の状況についてお伺いします。動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2012年版)で示されているLDLコレステロール(LDL-C)管理目標値は,近年,どの程度達成されているとお考えですか。

 本ガイドラインは,動脈硬化性疾患リスクに応じて患者さんを層別化し,リスクカテゴリーごとにLDL-C管理目標値を定めています。2003年に実施されたJapan Lipid Assessment Program (J-LAP)1)では,冠動脈疾患高リスク患者群におけるLDL-C管理目標達成率は一次予防高リスク群で約52%,二次予防群で約31%となっています。その後,より強力なスタチン製剤が登場したこともあり,2010年に行われたJapan Lipid Guideline Achievement Program(JL-GAP)2)では達成率の向上が期待されたのですが,スタチン治療中の患者さんにおける同達成率は,一次予防高リスク群約57%,二次予防群にいたっては約25%と低下傾向が示され,向上していないことが分かりました。冠動脈疾患高リスク患者の脂質管理状況は,決して良いとは言えません。

◆近年は,LDL-C以外の脂質パラメータへの治療介入についても,目が向けられるようになりました。先生が注目されているパラメータを教えてください。

 LDL-Cを管理目標値まで低下させてもイベント発症リスクが十分に低減しないケースがあり,この残存リスクにいかに介入するかが,LDL-C管理目標達成とともに脂質管理の重要な課題となっています。
 このような中で近年,特に注目されているのが食後高脂血症に対する治療介入の意義です。食後高脂血症は,食後に中性脂肪に富んだレムナントリポ蛋白が長時間血中に遷延する病態ですが,同リポ蛋白は動脈硬化惹起性が非常に高いことが分かっています。また,抗動脈硬化作用を有するHDLも注目されているパラメータの1つで,HDLコレステロール値の上昇,また,HDLの末梢細胞からのコレステロール引き抜き能の増強が,新たな治療戦略として期待されています。

家族性高コレステロール血症をいかに治療すべきか

◆高リスク患者におけるLDL-C管理目標値の達成率が低い要因の1つとして,その中に家族性高コレステロール血症(FH)の患者さんが潜んでいる可能性が指摘されています。現段階でのFH診療はどのような状況にありますか。

 現在は,LDL-C値が著しく高くても,スタチンである程度は管理できるという安心感があり,そのことがFHを検出しようとする意欲を低下させていると思われます。FH診断は難しいものではありませんが,きちんとした診療が行われず,患者さんが見逃されている状況にあります(表1,表2)3)。

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