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結核と非結核性抗酸菌症

非結核性抗酸菌症の治療指針

Guidelines for treatment of nontuberculous mycobacteriosis.

鈴木克洋

Pharma Medica Vol.30 No.6, 49-52, 2012

はじめに
 非結核性抗酸菌(Nontuberculous Mycobacterium;NTM)とは,結核菌以外の培養可能な抗酸菌の総称であり,主に肺に慢性感染症(肺NTM症)を惹起する。NTMは土壌や水回りなどに生息する環境寄生菌であり,結核菌と異なりヒトからヒトへの感染は否定されている。結核菌の検出が診断に絶対的意味があるのに対して,NTMの検出は必ずしも病気としてNTM症を意味しない。肺NTM症の診断には診断基準1)を満たす必要がある。
 本稿では肺NTM症の治療指針について,日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会(以下,対策委員会)と日本呼吸器学会感染症・結核学術部会合同で作成した「肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解-2012年改訂」2)(以下,改訂見解)の解説を中心に行う。外科療法については,対策委員会が2008年に発表した「肺非結核性抗酸菌症に対する外科治療の指針」3) (以下,外科指針)を概説するにとどめる。

KEY WORDS
●治療指針 ●肺MAC症 ●肺カンサシ症 ●日本結核病学会

Ⅰ.わが国での肺NTM症治療指針作成の経緯

 1990年代まで肺NTM症は肺非定型抗酸菌症と呼ばれ希少疾患として,主に結核専門医がついでに診療する病気であった。日本結核病学会治療委員会は1987年に「非定型抗酸菌症の治療に関する見解」を,また同学会非定型抗酸菌症対策委員会は1998年に「非定型抗酸菌症の治療に関する見解-1998年」を発表している。両見解とも各種NTM症の疫学,細菌学も含めた内容で,専門家向けの治療指針といえる。当時NTM症に保険適応のある薬剤は皆無であり,1990年代にはすでにNTM症に対する有効性が明らかになっていたクラリスロマイシン(CAM)の記述は,歯切れの悪いものとなっている。
 2000年代になっても正式に認められた薬剤がないという異常な事態が続くこととなる。その後学会,厚生労働省,製薬メーカーの努力もあり,2008年にCAMとリファブチン(RBT)が正式にNTM症の治療薬として保険適応となった。以後一般医家で治療する例の増加が予想されたため,学会としての見解をできるだけ早く示す必要に迫られ,「肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解-2008暫定」4)が発表された。この見解では肺NTM症の約80%を占める肺M. avium complex(MAC)症についてのみ言及している。2011年にはさらにリファンピシン(RFP)とエタンブトール(EB)の肺NTM症への適応拡大が正式に認められたため,2012年に「改訂見解」2)を発表することとなった。「改訂見解」では,肺M. kansasii(カンサシ)症の化学療法についても言及している。

Ⅱ.「改訂見解」肺MAC症に対する標準化学療法の解説

 「改訂見解」2)そのものが日本結核病学会ホームページ(HP)の対策委員会報告からダウンロード可能なので,本文をぜひ熟読していただきたい。本稿では「改訂見解」をいくぶん噛み砕いて解説することとする。「2.肺MAC症に対する標準化学療法」が「改訂見解」の主要部分である。
 表1 2)に肺MAC症化学療法の用量と用法を引用しておく。

すべての薬剤の体重あたりの投与量と投与方法を記載しているのが改正点である。CAMについてのみ若干あいまいなのは,同薬が肺MAC症治療の中心であり,できる限りたくさんの量を1回投与するのが理想であるが,高齢者では副作用の発現頻度が高まるため,このような表現となった次第である。体重40kg以上であれば800mg分2で,40kg未満の場合600mg分1で投与するのが一般的な意見である。しかし年齢や体重,また副作用のため,さらに減量や分割投与を余儀なくされることもある。ストレプトマイシン(SM)またはカナマイシン(KM)は,比較的重症例に初期2~3ヵ月間併用するのが一般的な使用法と考えられる。しかし中等症以上であればできるだけ併用すべきとの意見もある。
 副作用対策は結核以上に大切であるため,「改訂見解」でも詳述している。第一に味覚障害や胃腸障害による食欲低下が問題となる。特に70歳以上の高齢者で頻度が高いため,表1 2)の薬剤を一気に投与するのではなく,1週間ごとに1薬剤ずつ加えていくなどの工夫が大切である。高齢でやせている患者の場合,1薬剤の投与量も少なめから開始するなどのさらなる配慮が必要となる。その他血液毒性,皮疹,EBによる視力障害が特に重要な副作用である。減感作療法の適応も含めて「改訂見解」の副作用の項を参照願いたい。RBTの使用法と副作用対策については特に詳しく述べている。RBTはRFPより副作用の頻度が高いので,RFPが使用できない例に投与するのが一般的である。RBT 300mgがRFP 600mgに相当する。またCAMとの併用で血中濃度が上昇し副作用(特にぶどう膜炎)の頻度が高まると報告されている。したがって初期投与量は150mgとし,6ヵ月以上副作用がない場合のみ300mgまで増量する。
 治療開始時期について「改訂見解」では明言していない。現在の化学療法の効果が不十分であること,副作用の頻度が特に高齢者で高いこと,肺MAC症の経過が一律ではなく無治療でも長期間悪化しない例が存在していることを考えると,診断基準を満たした症例すべてを治療することは現実的ではない。高齢で症状が乏しく経過が緩慢な例は,無治療で経過観察してよいというのが一般的な見解である。しかし,どのような例でもできるだけ早期に治療を開始したほうがよいとの意見もあり,また保険適応のある正式な薬剤がある現状では,十分説明し本人の同意を得たうえで無治療・経過観察としなければならない。その点も踏まえて,外科適応を含めた治療方針について専門医に一度相談しておくことが望ましいと「改訂見解」には記載されている。
 治療開始時期との関連で,今回の改訂では肺MAC症の病型についても言及している。近年顕著に増加しているのは,中葉・舌区を中心に気管支拡張と小結節影が多発する結節・気管支拡張型である。この病型は,中年以降の特に基礎疾患のない女性に多い。一方,結核と同様に肺尖や上肺野中心に空洞が多発する線維空洞型がある。この病型は喫煙男性に多く,結節・気管支拡張型と比べて予後不良である5)。したがって線維空洞型の場合,診断後速やかに最大限の化学療法を開始し,できる限り外科治療も加えなければならない。
 現在ブロスミックNTMTMを用いることで,「改訂見解」で推奨した薬剤の検出菌株に対する最少発育阻止濃度(MIC)を測定することが可能である。しかし,CAM以外の薬剤のMICが肺MAC症の治療効果を予測できるというデータは得られていない。CAM以外の薬剤の単剤投与では,生体内での効果は乏しいというのが従来からの見解である。EB単剤のMICは治療効果が考えられないほど高いことが多い。しかし実際の臨床でCAMと併用した場合,一定の効果があることは以前より知られている。CAMのMICのみ臨床的には有用となるが,初回治療例のCAM耐性はほとんどないので,再治療例もしくは治療経過の悪い例のみ測定すればよい。MIC 4μg/mL以下が感受性,32以上が耐性で,8と16は判定保留とする5)。CAM耐性の場合CAMは中止とする。判定保留の場合CAMは継続し,定期的にCAMの薬剤感受性検査を繰り返す。CAM耐性は,CAM単剤またはCAM+フルオロキノロン薬投与例に多いとされており6),このような治療をしてはならない。治療するならできる限り「改訂見解」で示した多剤併用療法を実施する。
 化学療法の期間も「改訂見解」には明示していない。米国のガイドライン5)では喀痰培養陰性化後1年,英国のガイドライン7)では総計2年となっているが,エビデンスがあるわけではない。肺MAC症の経過や予後は,個々の症例で大きく異なっており,もともと一定の治療期間を決めにくいことは,治療開始の基準を作成しにくいことと同様である。化学療法の効果が認められた症例では,米国ガイドラインより長く治療したほうが予後はよいとの報告がわが国でなされている8)。

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