はじめに  さまざまな体細胞から胚性幹細胞(Embryonic Stem cell;ES細胞)と同等の能力をもつ多能性幹細胞(人工多能性幹細胞;Induced PluripotentStem cell;iPS細胞)1)2)が樹立されてから5年が過ぎた。国をあげてこの細胞のアプリケーションに関する研究が展開されている一方,その多くの実現可能性に関しては欧米や中国,韓国に先を越されようとしている。どうしたらわが国発の画期的な技術革新を世界中に発信しつつ,わが国の国民全体の利益につながるのであろうか。その命題を解決すべく,2年前から京都大学にiPS細胞研究所が設立され,比較的若い主任研究者を中心に総勢300名近い人々が集っている。筆者も昨年本研究所に参画することになり,新たな視点でこの細胞に向き合うことになった。本稿では筆者が行っている“血小板”研究を題材に,iPS細胞研究が向かう方向性を議論してみたい。 KEY WORDS ●iPS細胞 ●血小板 ●ヒト造血発生 ●疾患解析