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血小板をめぐる最近の話題

(トピックス)血小板活性化受容体CLEC-2と血管・リンパ管新生

Platelet activation receptor CLEC-2 regulates lymphangiogenesis.

井上克枝

Pharma Medica Vol.30 No.5, 49-53, 2012

Ⅰ.CLEC-2とは1)-3)
 蛇毒は,ヒトの凝固・線溶因子や血小板の機能を抑制,促進する蛋白を多く含み,これらを研究することが,血栓止血学の発展に大いに寄与した。われわれは,ロドサイチン(アグレチン)と呼ばれる血小板活性化蛇毒の受容体を検索することで,C-type lectin-like receptor 2(CLEC-2)という新しいクラスの血小板化活性化受容体を見いだした4)。血小板凝集を惹起する受容体として,これまでG protein-coupled receptors(GPCR)とimmunoglobulin superfamilyの2種類の受容体が知られていた。immunoglobulin superfamilyはチロシンキナーゼ依存性に活性化シグナルを惹起する受容体で,血小板ではGlycoproteinⅥ/Fc receptor γ-chainとFcγreceptorⅡAがある。GPCRには,トロンビン受容体,ADP受容体,thromboxane A2受容体などがある。CLEC-2はチロシンキナーゼ依存性に活性化シグナルを惹起するが,C-type lectin superfamilyに属する全く新しいクラスの血小板凝集惹起受容体である。

KEY WORDS
●血小板 ●CLEC-2 ●ポドプラニン ●リンパ管新生

Ⅰ.CLEC-2とは(続き)

 CLEC-2が血小板を活性化するメカニズムを解明した。CLEC-2は細胞内に1つのYXXLモチーフをもち,hemi-ITAMあるいはhalf-ITAMなどと呼ばれている。これはT cell receptorなどの免疫受容体に認められるシグナリングモチーフであるimmunoreceptor tyrosine-based activation motif[ITAM:YxxL-(X)10-12-YxxL]に類似しているが,ITAMには2つあるYXXLが1つしかないためである。ロドサイチン刺激により,1つのYXXLがチロシンキナーゼのSrcなどによりリン酸化されると,そこにチロシンキナーゼのSpleen tyrosine kinase(Syk)が結合する。Sykには2つのSH2ドメインがあるが,これらが2つのCLEC-2分子のリン酸化YXXLに2:1の割合で結合する5)。Sykはリン酸化hemi-ITAMに結合することにより活性化され,下流のアダプター蛋白である,linker of activated T cells(LAT)やSH2-domain-containing leukocyte protein of 76 kD(SLP-76)をチロシンリン酸化し, チロシンキナーゼBtkの活性化,phospholipase Cγ2(PLCγ2)の活性化,血小板活性化へと続いていく(図1)。

SykやSLP-76はCLEC-2信号伝達系に必要なシグナル分子であり,これらを欠損したマウスの血小板はロドサイチン凝集が抑制される4)。このことはCLEC-2のリンパ管新生での役割を考えるきっかけとなった。

Ⅱ.CLEC-2の生体内リガンド

 ある種の癌細胞は血小板凝集を惹起して,癌の増殖や転移を促進しているという。癌細胞が血小板を活性化する機序はさまざまであるが,その1つにポドプラニンと呼ばれる膜糖蛋白がある。ポドプラニンは扁平上皮癌,セミノーマ,脳腫瘍などの,ある種の癌細胞に発現し,血小板凝集を惹起する6)。ポドプラニンの発現は癌の転移や進行と相関することが報告されている7)8)。われわれは,CLEC-2がポドプラニンの受容体であることを報告した9)。さらにマウスの実験的肺転移モデルにおいて,抗ポドプラニン抗体が,ポドプラニン発現細胞の肺転移を強く抑制することを示し,CLEC-2・ポドプラニンが抗転移薬のターゲットとなる可能性を示唆した10)。
 ポドプラニンは腫瘍細胞に加えて,リンパ管内皮,タイプⅠ肺胞上皮,腎足細胞など,いくつかの正常組織にも発現している6)。血管内皮には発現していないため,リンパ管内皮のマーカーとして頻用されている。しかし,生理的な状態では,血小板のCLEC-2はリンパ管内皮のポドプラニンと接触する機会はなく,その生理的な意義は不明であった。しかし,発生の段階ではリンパ管内皮と血小板が接触する機会がある。主静脈と呼ばれる血管の内皮細胞の一部がリンパ管内皮の性質を示すようになり,これらが分離して初期リンパ囊が形成され,この初期リンパ囊が末梢にのびてリンパ管が形成される11)。
 近年,発生の段階で,血小板のCLEC-2とリンパ管内皮のポドプラニンが結合することが,リンパ管と血管の分離に必要であることを示唆する研究結果がいくつも報告された。前述のSykとSLP-76を欠損したマウスはリンパ管と血管の分離不全があるという12)。これらの信号伝達分子はCLEC-2惹起血小板凝集に必要な分子であるが4),血管やリンパ管内皮には発現していない。ポドプラニン欠損マウスもリンパ管異常があり,ポドプラニンはリンパ管形成に不可欠の分子であることがわかる13)14)。さらに,内皮細胞特異的にO型糖鎖を欠損するマウスは,リンパ管と血管の分離不全があることが報告されたが15),われわれは以前,ポドプラニンのO型糖鎖のシアル酸がCLEC-2とポドプラニンの結合に必須であることを示した9)。Carramolinoらは,血小板・巨核球を完全に欠損するMeis-1欠損マウスがリンパ管・血管の分離不全があることを報告し,血小板がリンパ管と血管の分離に必要であることを示した16)。これらの報告はすべて,CLEC-2とポドプラニンの結合が,血管とリンパ管の分離に必要であることを示唆している。ポドプラニンには,その機能は不明であるものの,galectin-8 17)やlymphatic-specific chemokine(CC motif)ligand 21(CCL21)18)といったCLEC-2以外のリガンドも報告されているため,この仮説を証明するためには,CLEC-2欠損マウスが必要となる。
 最近,Bertozziらとわれわれは,独立にCLEC-2欠損マウスを作製し,この仮説が正しいことを証明した。両者とも,CLEC-2欠損マウスは胎生あるいは生後間もなく死亡し,血液の充満したリンパ管と強度の浮腫が認められることを報告した19)20)。マウスにおいては,CLEC-2は好中球や樹状細胞などにも発現している。Platelet factor 4(PF4)-CreシステムによりSLP-76 19)あるいはCLEC-2 21)(Osada M, et al:manuscript in revision)を血小板・巨核球系でのみ欠損させたマウスでも,リンパ管と血管の分離異常が認められることから,血小板のCLEC-2がリンパ管と血管の分離に必要であることが証明された。

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