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血小板をめぐる最近の話題

(臨床編)抗血小板薬;最近の動向

Current status of antiplatelet agents.

後藤信哉

Pharma Medica Vol.30 No.5, 33-35, 2012

Ⅰ.抗血小板薬とは
 血液中には直径2~5μmの血小板細胞が多数存在する1)。血管壁が損傷して血管内皮下の血栓性マトリックスが血流に曝露されると,血小板が即座に集積して止血に寄与する2)。血小板の直径は2~5μmに過ぎないが,血液中には20万/μLと大量に存在するため,短期間に大量の血小板が集積すれば数十μmの血管を閉塞できる。脳のように虚血に敏感な臓器であれば,数十μmの血管の閉塞でも虚血症状を惹起する。心臓は虚血に対して比較的鈍感であるが,数十μmの血管閉塞により胸痛,血液中のトロポニン濃度の上昇などが起こる。そのような症例の一部は不安定狭心症,非Q波性心筋梗塞などの急性冠症候群として認識される。さらに,微小血管が多く閉塞されて,直径数mmの冠動脈枝の血流が緩徐になればフィブリン形成が促進して,Q波性心筋梗塞の発症につながる場合もある3)。

KEY WORDS
●血小板 ●抗血小板薬 ●アスピリン

Ⅰ.抗血小板薬とは(続き)

 血小板による止血の機能を阻害する薬剤が抗血小板薬とされる。アスピリンが古典的な抗血小板薬である4)。アスピリンは血小板内のシクロオキシゲナーゼ(COX)-1をアセチル化して,その酵素機能を失活させる。COX-1は血小板からトロンボキサンA2を産生させる酵素である。アスピリンを作用させた血小板では,活性化時のトロンボキサンA2の産生が阻害される。血小板には多くの活性化受容体,活性化シグナル経路があるが(図) 5),アスピリンが阻害するのはトロンボキサンA2の産生のみであるため,アスピリンを大量投与しても重篤な出血合併症は増えない。

およそ100mg/日程度のアスピリンを投与すれば,血小板のCOX-1は完全に阻害される。心筋梗塞,脳梗塞などの血栓性イベントの発症リスクは25%程度減少し,頭蓋内出血などの重篤な出血性合併症の頻度は1.3倍程度に増加する。アスピリンは有効,安全,安価であるが,心筋梗塞発症予防との観点では完全ではない。

Ⅱ.新規の抗血小板薬

 アスピリン以外の抗血小板薬としてチクロピジン,クロピドグレルが広く使用されている。いずれも当初は作用メカニズムが未知であったが,のちに薬効標的であるP2Y12ADP受容体がクローニングされた6)。クロピドグレルの特許は日本以外の諸国ですでに喪失している。クロピドグレルの成分を含む多くの製剤が安価で販売され,競争原理が働いて使いやすさの優れた安価な製剤が各地で販売される状況にある。アスピリンが心筋梗塞再発予防におけるエビデンスが豊富であることに比較して,クロピドグレルでは冠動脈疾患,脳血管疾患,末梢血管疾患における有用性が確認されている7)。冠動脈ステント後の血栓性閉塞に対しても予防効果がある。チクロピジンに比較して安全性が改善されたとはいっても,クロピドグレルでも肝障害,血栓性血小板減少性紫斑病などの血球系合併症がまれに起こる。プロドラッグであるから,個別最適化はできない。
 クロピドグレルと同様のP2Y12を標的として抗血小板薬プラスグレル,チカグレロールが開発された。標準量のクロピドグレルよりもP2Y12阻害効果の高い用量を用いたためか,いずれも心筋梗塞などの血栓性イベントがクロピドグレル群よりも低く,出血性合併症が多いとの結果であった8)9)。クロピドグレルが特許を喪失して安価になるとの条件下では,これらの薬剤の魅力は乏しい。チカグレロールの試験では,クロピドグレル群よりも死亡率が低いとの結果であったので,この結果が実臨床においても真実であれば,生き残る可能性はある9)。
 ADP以外の受容体としてトロンビン受容体PAR-1の阻害薬が開発された。PhaseⅡまでの試験ではPAR-1阻害薬を用いても重篤な出血合併症は増えないかもしれないと期待されたため10),phaseⅢ試験が2本施行された。アスピリン/クロピドグレルがほとんどの症例において使用されている急性冠症候群の症例では,さすがにPAR-1阻害薬ボラパキサルを追加すると,頭蓋内出血を含む重篤な出血合併症が増加して試験は中止された11)。安定期の症例を対象とした試験でも,脳卒中後の症例では出血合併症が多いとされ,心筋梗塞後の症例においてのみ有効性が証明された12)。

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