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発達障害の診断と治療・支援をめぐって

ADHDの心理社会的支援をめぐって

Psychosocial treatment for ADHD.

岩坂英巳

Pharma Medica Vol.30 No.4, 37-40, 2012

はじめに
 国内における注意欠如・多動性障害(attension deficit/hyperactivity disorder;ADHD)の診断・治療ガイドライン1)によると,「ADHD治療は,親ガイダンス,学校との連携,子ども本人との面接と薬物療法を組み合わせて行うのがわが国の臨床家の間では一般的であり,これらをADHD治療の基本キットとする」,「子ども本人に対する・・ソーシャルスキルトレーニング(SST),親への・・ペアレントトレーニング(PT),虐待が問題となる場合の児童相談所との連携,・・不適応の深刻化に対処する入院治療などは,より専門性の高い治療技法である。各地域で医療機関,教育機関,福祉機関などが連携して,これらを適切に提供できるように努めるべきである」と述べられている。米国児童青年精神医学会(AACAP)のガイドライン2)においては,「薬物療法と行動療法が治療の二本の柱。これに関係諸機関との連携と家族支援を加える」となっており,さらに「問題行動の軽減だけでなく,適応行動を増やしていくなかで,長期的視野で家族,教師,友人らとの対人関係の改善,学業や作業の達成度の向上,セルフエスティームの改善も含めること」として治療のゴールの考え方を示している。
 そして,これらの心理社会的治療のなかで,PTの有効性はAACAPだけでなく,英国ガイドライン(NICE)3)やカナダガイドライン(CADDRA)4)などでも認められており,SSTや成人例への認知行動療法についてはNICEなどで推奨されている。
 本稿では,これらの治療的考え方をさらに「支援」として拡げ,国内での現状をふまえ,心理社会的支援の中心となる連携と家族支援について筆者らの取り組みを述べたうえで,ADHDの心理社会的支援をめぐる今後の課題について述べる。

KEY WORDS
●ADHD ●心理社会的支援 ●ペアレントトレーニング ●家族支援

Ⅰ.国内の現状から

 医療における心理社会的治療への具体的ニーズについては,田中らの調査(2007年)5)において,保護者側のニーズ(支援団体会員対象)として,子どもへの心理的対応やSSTが薬物療法に並んで6割以上に希望されており,親へのPT,保育・教育との連携などの心理社会的支援を求める声も同程度みられていた。同時期に行われた医療者側への調査では,心理的対応,連携,育児助言などが多くなされており,PTの実施は3割程度であったが,薬物療法と同程度(7割以上)の有効感がみられていた。松浦ら6)が行った医療者側への調査(2011年)においては,医師による精神療法,連携による環境調整,親ガイダンスなど齊藤らのガイドラインの基本キットが約6割から7割の機関で実施されており,PTやSSTの実施(所属機関あるいは紹介先機関にて)は2割程度であったが,これから取り組みたいこと,保護者からの要望が高いことが明らかとなった。これらの調査は保護者側の属性が異なるため,単純に比較できるものではないが,医療での心理社会的治療については,PTやSSTなどの専門療法への医療者,保護者双方のニーズは高いものの,十分に広がっていないことが示唆される。
 では,心理社会的支援が浸透していないのであろうか。2000年頃からの「発達障害バブル」ともいえるような医療機関への殺到はやや落ち着いたような感覚があるが,それは医療に対してのニーズが減ったというよりも変わったというべきであろう。すなわち,診断がつくことで安心して,薬物療法を受けるか否か,すなわち現在の問題行動への対処だけで終わるのではなく,早期からの気づきと療育的かかわり,積極的な学校など関係機関との連携,二次障害を予防できるような働きかけなど,AACAPに示されている長期的視点での支援が望まれることが増えていると感じている臨床家は多いのではないだろうか。この背景には,2005年からの発達障害者支援法,2007年からの特別支援教育本格実施などの影響もあって,非日常の場である医療の場というより,日常生活の場である家庭や学校での適応に目が向くようになり,心理社会的支援へのニーズが増えてきていることがある。このような支援を担う専門性は,医師や心理士,作業療法士など医療関係者だけでなく,保健,福祉,教育,さらに労働においても求められるようになってきている。そして,子どものライフサイクルに応じて,それらの関係機関と連携することが医療者側には強く求められてきており,そのニーズに応えることが大切である。

Ⅱ.連携

 まず,医療者側と学校との連携について述べる。医療者側にとって,子どもとその親を支援するにあたって一番の連携先は学校であろう。子どもにとって,寝ている時間を除けば家で過ごすよりも学校で過ごす時間のほうが長く,学校での周囲の理解と協力はきわめて重要である。
 2010年に筆者が奈良県内で児童思春期精神科医療に携わる医師7名にアンケート7)したところ,①教育との連携が重要であると考える医師は5名,重要であるが時間が取れないとする医師は2名,②連携時に重要視していること(複数回答可)は,守秘義務5名,保護者の意向5名,その他(本人ニーズが第一,保護者も一緒に話すなど),③連携時に困ることは,担任と保護者の(子どもの問題に対する)温度差や軋轢(2名),極端な考え(障害はすべて教育の問題,あるいは医療の問題など),電話で話したい,校内の意見の不一致など,④連携して役立ったことは,教師の理解により子どもが学校生活を過ごしやすくなった,保護者と教師とで共通認識がもてた,学校での子どもの様子がよくわかった,医師自体の達成感がもてた,などの結果が得られた。これらはあくまでも少数の医師からの参考意見であるが,連携の重要性は理解しながらも,日常診療の多忙さに追われて十分に時間がもてない現状,連携がうまくいくことでの子どもへのメリットの大きさ,さらに学校現場での発達障害,あるいは特別支援教育への理解の温度差などが示唆される。
 また,最近では幼稚園・保育園,小学校,中学校,そして高校とでの縦の連携も重要視されている。その際に,保護者側が引き継ぎを希望しているにもかかわらず,学校側(すなわち対応した教員,特に管理職)の誤った守秘義務の捉え方から,必要な情報が伝わらないことがある。主治医のスタンスとして,保護者,そして本人が了承しているときは,学校側に明確に引き継ぎを依頼するように保護者に伝えることが望ましい。また,この時に忘れてはならないこととして,「本人が自分のことをどう理解しているか」ということについて,進学先の学校に伝えることである。筆者は告知を延ばしていた児に,中学校側から事故のようにADHDであることを本人に直接告げられ,結果として本人を苦しめてしまった経験がある。逆に,中学入学後に発達障害が疑われたが,保護者が認めない(このような場合はむしろ小学校時代にトラブルが生じていたことが多い)ため,小学校からの情報が得られないことも経験される。学校間のみでなく,保護者も含めた三者の連携体制が大切であろう。なお,現時点では個別の教育支援計画は特別支援学級の児童生徒であっても「努力規定」ではあるが,今後このような支援計画が浸透すると,保護者と学校とのオープンな連携を前提に幼児期からの支援の積み重ねを引き継ぐことができるようになることが期待される。

Ⅲ.家族支援

 前述したように,親ガイダンスを含めた家族支援はADHDの心理社会的支援の基本である。ライフサイクル全般で支援が必要な本人にとって,生活を共にする家族が本人の最大の理解者かつ支援者になることのメリットは大きい。長期的には,本人自身が自分理解を深め,他者との違いも認めたうえで自分の得手不得手を理解して,生活の工夫をしていけるようになることが心理社会的支援の目標であるが,そのためには親による子ども理解が欠かせない。それは,子どもをサポートしつつ,必要に応じて学校をはじめとした子どもに関わる機関と連携していくことだけでなく,子どもの特性と気持ちに応じた親のかかわりによって,子どものできることを増やしていき,達成感をもたせることによって,二次的障害を予防することができるからである。さらに親子関係を安定化させることが,子どもの対人関係の第一歩である親子の愛着形成,信頼関係構築に通じ,それらが他者との安心した関係をもつための基礎となり,キレないような安定した情緒につながるのである。
 また,家族支援では親自身のストレスを減じる方向でかかわることが大切であり,親のメンタルヘルスを保つことが子どもの経過によい影響を与えることをおさえておきたい。この際,カウンセリング的対応も有効ではあるが,後述するPTなどを参考として,行動療法的な捉え方で目の前で展開される子どもの不適応行動への理解と対応をすすめ,養育への自信を高めることによって,子どもの将来への不安を減じていくことも大切である。さらに,親のうつ状態や子どもに似た発達的要因にも気を配り,その状態に応じた支援をしていく必要がある。
 家族支援や環境調整のためのツールとして,PT 8)9)が注目されている。ここで留意すべきは,PTは「親が養育能力に欠けているから訓練する」というものではなく,「子どもの現在の不適応状態は本人のわがままでも,親の養育の失敗でもなく,脳の発達特性によるものである。しかし,かかわり方によって子どもの様相や経過は変わってくるので,行動療法に基づいてかかわり方のコツをつかんでいく」ものということである。手法としては行動療法,すなわち「子どもの好ましい行動に注目して(ほめて),その行動を増やしていく」のであるが,その前提として親子の信頼関係があることを忘れないようにしたい。さらにグループで,スモールステップで進んでいくからこそ,おのおのの参加者(親)が主体的にわが子の行動理解と対処法を身につけていくことができるのである。
 PTはその実施機関におけるニーズに基づいて,標準的な10回版だけでなく,幼児を対象とした5~6回の短期版や広汎性発達障害にも対応できるようなプログラムも発展している10)。グループインストラクターの養成が急務である。

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