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発達障害の診断と治療・支援をめぐって

発達障害と間違われやすい身体疾患;鑑別診断のために留意すべきこと

The erroneous diagnosis of developmental disorders;clinical features and examinations to differentiate the disease mimiking symptoms of developmental disorders.

林北見

Pharma Medica Vol.30 No.4, 29-32, 2012

はじめに
 現在,発達障害に含まれる主要な病態は,広汎性発達障害(pervasive developmenral disorder;PDD),注意欠如・多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder;ADHD),学習障害(learning disorders;LD)であるが,歴史的には知的障害,運動発達障害,発達性協調運動障害,発達性言語障害,てんかんなどを包括する概念とされる。本稿で対象とするのは前者であるが,主な症状である認知障害,注意障害,コミュニケーションの障害などは非特異的な症状であり,脳器質的疾患,身体疾患による類似症状との鑑別を慎重に行う必要がある。閉塞性呼吸障害に起因する睡眠障害は,日中に不注意,衝動性などのADHD様症状を呈することも知られている。その身体疾患を治療することで発達障害と疑われる症状は消退する。
 タイトルである「発達障害と間違われやすい身体疾患」はこのような病態を示すと思われるが,脳に原因があることが明確であるてんかんにおいても,一部の症候群では一過性に発達障害類似の症状が顕著に認められることがあり,治療によって改善が期待できる場合もある。また,知的障害,行動障害が初期症状としてみられることの多い神経疾患も重要な鑑別疾患である。本稿では主に幼児期から学童期に受診した場合を想定し,鑑別疾患を検討する。

KEY WORDS
●睡眠障害 ●内分泌疾患 ●アレルギー性疾患 ●てんかん ●脳腫瘍 ●代謝・変性疾患 ●染色体異常 ●神経皮膚症候群 ●薬剤

Ⅰ.鑑別すべき疾患

1.睡眠障害1)

 どのような原因であれ,睡眠の障害は日中の傾眠傾向,不注意,衝動性,多動性の原因となりうる。内在因性睡眠障害として周期性四肢運動異常症,Restless Legs症候群は小児例の報告もある。テレビ視聴,ゲームやパソコン,携帯電話などへの過度の依存,あるいは,家庭での生活習慣として深夜まで活動するなどのために睡眠時間の不足をきたし,発達に重大な影響を与えることが懸念されている。就寝場所の明るさ,騒音などの環境要因にも注意が必要である。扁桃やアデノイド腫大,肥満などによる上気道閉塞性呼吸障害は睡眠障害をきたし,さまざまな問題行動の誘因となる。上気道狭窄では覚醒時にも呼吸症状が残り,注意集中が妨げられることもある。

2.内分泌疾患

 甲状腺機能亢進症はびまん性甲状腺腫と甲状腺ホルモンの過剰による頻脈,発汗増加,体重減少,手指振戦などの症状を呈する。小児期の発症は少ないが,集中力の低下,落ち着きのなさ,イライラや学力低下といった症状で気づかれることがある。一方,橋本病などによる甲状腺機能低下症も小児期には少ないが,意欲低下,集中力や記憶力の低下として発症することもある。

3.アレルギー疾患

 気管支喘息やアトピー性皮膚炎では,瘙痒感や呼吸苦などの症状が悪化することによって睡眠障害をきたすことがあり,また,日中に症状がみられることで不注意や多動性を示すこともある。抗ヒスタミン薬やテオフィリン製剤の作用によって症状はさらに悪化する可能性もある。

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