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虚血性脳卒中診療の現在;急性期診療からリハビリテーションまで

脳梗塞急性期のrt-PA療法の現状と課題

峰松一夫豊田一則

Pharma Medica Vol.30 No.2, 9-12, 2012

はじめに
 遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ(recombinant tissue-type plasminogen activator;rt-PA:一般名アルテプラーゼ)を用いた発症3時間以内の超急性期血栓溶解療法は2005年に国内承認された。2011年までの6年間の国内使用件数は4万例を超え(推定),本療法は今や標準的治療として定着しつつある。本薬の薬理効果,本療法の理論的根拠,国内承認に至るまでの長い道のりについては,他著で論じた1)。

KEY WORDS
●アルテプラーゼ ●再開通 ●治療可能時間 ●臨床試験

はじめに(続き)

 海外でのアルテプラーゼ用量は,米国NINDS(National Institute of Neurological Disorders and Stroke)の多施設共同試験で用いられた0.9mg/kgが定着している2)。これに対し,わが国の第Ⅲ相治験J-ACT(Japan Alteplase Clinical Trial)は,0.6mg/kgの用量が用いられ,かつすべて実薬を用いるオープン試験として実施された3)。この用量設定は,急性冠動脈閉塞例や発症6時間以内の急性期脳血管閉塞例を対象として実施された過去のrt-PA製剤の国内治験時のデータを根拠としている1)3)。この用量の差は,血液凝固線溶システムの人種差や,日本人(東アジア人)に頭蓋内出血が多いことなどを反映しているのかもしれない。こうしたことから,国内承認時条件として,日本脳卒中学会と本薬販売会社による本薬の適正使用の推進(適正治療指針策定,講習会実施など),承認後2年間の使用成績調査(全例調査)と製造販売後臨床試験の実施とが,厚生労働省から求められた。これらの調査,試験の成績は,2010年に相次いで発表されたところである。
 本稿の前半では国内承認後の研究成績,国内治療の現状などを,また後半では承認後6年を経て明らかになってきた問題点を解説する。

Ⅰ.国内治療成績:J-MARSとJ-ACTⅡ

 承認後2年間の全例使用成績調査として,J-MARS(Japan post-Marketing Alteplase Registration Study)が実施された4)。この2年間に国内1,100施設で8,313例の患者にrt-PA静注療法が施行されたと推定されている。このうち942施設からの7,492例(女性2,836例,中央値72歳,治療前NIH Stroke Scale[NIHSS]の中央値15)がJ-MARSの安全性解析に,さらに発症前および3ヵ月後の両方のmodified Rankin Scale(mRS)が明らかであった4,944例が有効性解析に組み入れられた。図1に,安全性評価としての「治療後36時間以内の症候性頭蓋内出血発現率」を,また有効性評価としての「3ヵ月後のmRS」を,NINDS試験2),欧州における大規模市販後調査SITS-MOST(Safe Implementation of Thrombolysis in Stroke-MOnitoring Study:6,483例,女性2,581例,中央値68歳,NIHSS中央値12)5),J-ACT 3),筆者らの施設を含む国内10施設共同観察研究SAMURAI(Stroke Acute Management with Urgent Risk-factor Assessment and Improvement)rt-PA登録研究(600例,女性223例,72±12歳,治療前NIHSS中央値13)の治療成績と比べて示す6)。

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