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肥満をめぐる最近の話題

老年期における肥満症の考え方

小林一貴横手幸太郎

Pharma Medica Vol.30 No.1, 47-52, 2012

はじめに
 総務省統計局の人口推計によると,2011年9月現在,わが国における65歳以上の高齢者人口は2,980万人,総人口に占める割合は23.3%となり,いわゆる超高齢社会(21%以上)に突入している。75歳以上の後期高齢者も1,480万人(同11.6%)に及び,さらに2055年には2,387万人(同26.5%)に達して前期高齢者の約2倍になると推計されている1)。
 このように高齢者が急増するなか,70歳以上でbody mass index(BMI)≧25kg/㎡となる肥満高齢者の割合も増加してきている2)3)。詳しくは他稿に譲るが,若年から中年期における肥満(BMI≧25kg/㎡)は心血管疾患などによる死亡の危険因子として確立しており,内臓脂肪蓄積や肥満関連合併症を認めれば「肥満症」として医学的に減量が求められる2)4)。しかし高齢期における肥満については,生命予後に与える影響に関して若年~中年期とはやや異なる知見が多く,減量の有用性を示すエビデンスも不十分である(後述)。それゆえ,日本肥満学会が作成した「肥満症治療ガイドライン2006」および最近発表された「肥満症診断基準2011」においても,高齢者に関する記述はごく限られているのが現状である2)5)。
 本稿では,高齢者肥満の診断や臨床的意義および治療について,その特徴や注意点などを最近の知見を交えて解説する。

KEY WORDS
●高齢者肥満 ●内臓脂肪 ●筋肉量 ●骨密度 ●sarcopenic obesity

Ⅰ.高齢者肥満の特徴

 本質的な定義として,肥満とは脂肪組織が過剰に蓄積した状態を指し,本来「体格」を表すBMIは蓄積脂肪量との相関が強いことから肥満の指標となっている2)。ところが高齢者では,一般に性別によらず内臓脂肪の増加傾向を示す一方6),筋肉量は加齢とともに減少する(sarcopenia)ため,両者が相殺してBMIが上昇しない「かくれ肥満」の割合が増加する7)。わが国の調査においても,特に男性の場合BMI≧25kg/㎡の割合は中年期をピークにむしろ低下してくるが,BMI<25kg/㎡なのにウエスト周囲長(waist circumference;WC)が男性≧85cm,女性≧90cmと内臓脂肪が蓄積している「かくれ肥満」の割合は,男女とも70歳以上まで増加傾向にあることが示されている(図1)8)。

 この「内臓脂肪が蓄積して筋肉量が減る」というsarcopenic obesityが高齢者肥満の特徴であり,それゆえBMIで評価すると内臓脂肪量を過小評価する傾向にある。また筋肉減少=BMI低下に伴うリスクも含まれるなど,高齢者のsarcopenic obesityはBMIによる一元的な肥満リスク評価を難しいものにしている7)9)10)。

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