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感染防止対策の最前線

抗菌薬適正使用への道

大曲貴夫

Pharma Medica Vol.29 No.12, 55-58, 2011

Ⅰ.「抗菌薬適正使用」はなぜ混乱するか
 抗菌薬適正使用の推進にはどの医療機関も腐心しておられるものと思う。しかし現場ではどうすればいいかとの声も多く聞かれ,医療者と院内感染対策担当者の間に対立を生むことさえある。これらは,「抗菌薬適正使用」の捉え方が混乱しているところに原因がある。「抗菌薬適正使用」に対する医療者共通の認識がないために,各自(看護師,薬剤師,検査技師,インフェクションコントロールドクター,一般医師など)の置かれた立場からさまざまな捉え方をしてしまい,見解や各自の立場の相違に伴う意見の対立が生じてしまうのだ。たとえば多くの一般医師は「抗菌薬適正使用」というと「抗菌薬の使用前届出制度や使用制限」を連想する。しかも多くの場合,医師はこのような対策に対していい印象をもっていない。裁量権の侵害と受け止め,敵対的な態度をとることが多い。これでは,なかなか思うような結果も出てこない。

KEY WORDS
●抗菌薬適性使用 ●フィードバック ●抗菌薬使用前承諾制度 ●Antibiogram

Ⅱ.「抗菌薬適正使用」とは

 「抗菌薬適正使用」という言葉は頻用されている。しかし明確な定義の記載はなかなかみつからない。米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)のサイトには1),“A Public Health Action Plan to Combat Antimicrobial Resistance”と名付けられたプランが解説されている。これは米国の各省庁が取り組んで作った抗菌薬耐性菌の抑圧のためのAction planであり,抗菌薬の適正使用を“Appropriate antimicrobial drug use is defined as use that maximizes therapeutic impact while minimizing toxicity and the development of resistance.”のように明確に定義している。欧州にはオランダ,デンマーク,ベルギーといった抗菌薬の適正使用の歴史の長い国々が存在する。オランダの研究者で,抗菌薬の適正使用研究で知られるGyssensは“Maximal efficacy of the treatment should be combined with minimal toxicity at the lowest cost.”と定義している2)。
 これにより抗菌薬の適正使用とは,

①Maximal efficacy(最大の効果)
②Minimal toxicity(最小の副作用)
③Minimal development of resistance(抗菌薬耐性の最小化)

とまとめることができる。①については,抗菌薬治療を行うからには十分に効かせて感染症を適切に治療するという意味である。また抗菌薬で患者に無用な害を与えることは許容されない。そこで②のMinimal toxicityを目指す必要がある。医療に用いられる他の薬剤と違い,抗菌薬ならではの重要事は,抗菌薬耐性菌を増やさないことである。抗菌薬耐性菌が増加すれば手持ちの抗菌薬がやがては無力化し,実際に治療が必要なときの大きな障害となる。抗菌薬は限られた大切な資源であり,有効利用が求められる。よって③のMinimal development of resistanceを目指す。つまり抗菌薬適正使用の目的は「抗菌薬を用いて最大の効果を引き出して治療し,副作用のリスクを低減するように努め,なおかつ耐性菌が増加しないよう努力する」ことである。よって適正使用の活動は,これを実現するための活動ということになる。

Ⅲ.抗菌薬の適正使用推進のための病院管理者のあり方と組織

 抗菌薬適正使用の実現には,病院幹部の責任ある参加と現場職員への十分な権限付与が不可欠である。抗菌薬適正使用の推進は,医療機関における他の感染対策活動と同様に医療の質・安全対策として捉えられる必要がある。このような組織横断的で,場合によっては現場への直接の問いかけと対応が必要な活動には,病院幹部の主導および対策にあたる職員への権限付与が必要である。加えて病院管理者は資源の観点からも十分な支援を与えなければならない。
 抗菌薬適正使用の推進には,多職種によって構成されたチームによる活動が必要である。多職種チームの構成員としては感染対策にあたる医師・薬剤師・微生物検査技師・感染対策看護師・事務部門の担当者などがあげられる。

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