肝炎治療;最近の進歩
NAFLD,NASHの病因・病態
Pharma Medica Vol.29 No.10, 43-46, 2011
Ⅰ.脂肪肝発症機序
非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease;NAFLD)の多くは肥満(内臓脂肪型),2型糖尿病,脂質異常症,高血圧などいわゆる生活習慣病を背景にしており,NAFLDは生活習慣病の肝臓での表現型といわれている。しかし,睡眠時無呼吸症候群,神経性食思不振症(Anorexia nervosa)などの急激なやせ,消化管や膵臓の術後の吸収障害,種々の薬剤服用でもNAFLDが発症し,個々の症例でその背景はかなり異なる。
Key Words
●NASH ●SNPs ●酸化ストレス ●インスリン抵抗性
Ⅰ.脂肪肝発症機序(続き)
肝臓に中性脂肪が蓄積した状態を脂肪肝というが,その機序としては脂肪酸の取り込みの亢進(過剰な食事摂取や急激なやせ),合成促進,分解(酸化)抑制がある。単純性脂肪肝(simple steatosis;SS)から肝細胞の変性・壊死や線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis;NASH)への進展には,Dayら1)のtwo hits theoryが有名である。すなわち,いわゆる生活習慣病(first hit)をベースに脂肪肝が発症し,それに腸管から吸収されたエンドトキシン,内臓脂肪細胞から分泌されるTNF-αなどの炎症性サイトカインやアディポネクチン,レプチンなどのアディポサイトカインの作用,脂質過酸化,鉄過剰蓄積など(second hit)が加わりNASHが発症するという考えである(図1)。

ただ,NAFLDの20%前後がNASHに進展すると想定されているが,程度の差はあるもののsecond hitの多くはSSの段階でもみられ, NASHへの進展のすべてがsecond hitで説明できるものではなく,遺伝的素因も関与している。
KEY WORDS
●NASH ●SNPs ●酸化ストレス ●インスリン抵抗性
Ⅱ.肝細胞障害の機序
SS,NASHともそのベースにはインスリン抵抗性と酸化ストレスが存在しているが,NASHではSSに比してこれらはより顕著である。酸化ストレスとは活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)の産生と消去系のバランスが崩れ,生体が酸化に向かった状態である。ROSはDNA障害,ミトコンドリア障害,炎症性サイトカインの産生亢進などを引き起こし,肝細胞障害や発癌の原因になる。エンドトキシンはマクロファージからTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を亢進させ,酸化ストレスをさらに亢進させる作用がある。肥満によるインスリン抵抗性は脂肪酸のβ酸化を促進し,酸化ストレスの原因になる。内臓脂肪細胞から分泌される種々のアディポサイトカインのうちアディポネクチンはインスリン感受性の増強,抗炎症作用,抗線維化作用などを有しているが,内臓脂肪型肥満ではアディポネクチンの分泌が低下しており,より炎症や線維化が促進される。内臓脂肪組織にはマクロファージの浸潤に先立ってCD8+effector T細胞が浸潤し,全身のインスリン抵抗性に重要な役割を果たしていることが報告され,NASHにおける炎症性細胞浸潤にマクロファージが大きな役割を果たしている。星細胞にはアンジオテンシンⅡタイプ1(AT1)受容体が存在し,活性化した星細胞はアンジオテンシンⅡを分泌し,肝線維化に重要な役割を果たすTGF-βの分泌を促進し2),高血圧患者でNASHを高頻度に伴う原因となっている。イタリアから,高血圧患者では非高血圧患者に比してNAFLD合併率が有意に高く,朝に高血圧を示すdipperでは非高血圧患者の2倍,夕方も高血圧を示すnondipperでは実に4倍も高頻度にNAFLDを合併し,dipper, nondipperともに非高血圧患者に比してHOMA-IRが高値で,アディポネクチン値がより低値で,nondipperではdipperに比して有意にそれらが顕著であるとの報告がある3)。
なお, S S に比してN A S H ではHOMA-IRがより高値で,血清チオレドキシンレベルからみた酸化ストレスも高度で,血清フェリチンもより高値な例が多い。
大阪府済生会吹田病院で2008年から2010年の3年間に肝生検でNAFLDと診断した2 8 3 例の検討では, S S 対NASHにおける各生活習慣病の合併率に有意な差はなかったが,糖尿病,高血圧,脂質異常症の合併率はSSに比してNASHのほうがやや高頻度であった(図2)4)。

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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。